日々のなごはく。

名護博物館ブログ

クジラの骨はどこへ・・・ 〜大変残念な結果になった静岡遠征記録〜


昨年1月、静岡の海岸に打ちあがったザトウクジラの肉を取り除き、ほとんど骨の状態にして砂浜に埋めました。
全身骨格標本を作るためです(上の写真、2011年1月20日)。

大型のクジラの骨格標本を作る場合、このように砂浜に埋めて微生物に肉を分解してもらい、1〜2年したら掘り返します。

先月の25日〜28日にかけて、骨を掘り返すために現地へ行ったのですが・・・
大変残念なことに埋めた骨は見つかりませんでした。

地元の建設会社さんに埋めたときの位置情報をGPSで記録してもらい、杭打ちもして万全の態勢で臨んだのですが・・・
埋めたはずの場所に骨はありませんでした。


(↑ 埋めた範囲の周辺も掘り返して懸命に探したのですが・・・見つかりませんでした)

埋めた海岸は駿河湾に面する波当たりの強い場所。
どうやら、去年9月に静岡を直撃した台風の高波によって、砂ごと海に持っていかれたようです。

草が生えていて波の影響のなさそうななるべく高い場所に、それも重機で2.5mも砂を掘り下げて骨を埋めたのですが・・・
自然の驚異を改めて感じました。

今回は残念な結果になってしまいましたが、ザトウクジラの骨格収集をあきらめたわけではありません。

なぜ、静岡まで足を運んででもザトウクジラにこだわるのか・・・
それはザトウクジラが名護と深い関係のある種だからです。

春先に繁殖・子育てのために沖縄近海に回遊し、名護湾でもその雄大な姿を見せてくれるザトウクジラ。
今年は、特に確認頭数も多く、話題になりました。
(過去の記事はこちらこちら

ザトウクジラは1950年代〜60年代にかけて旧名護町で捕鯨していたこともあり、名護の歴史にも深い関係があります。
海の近くには鯨肉解体工場も建てられ、当時の名護の経済成長に貢献したと言われています。

そんな名護になじみのあるザトウクジラですが、過去にたくさんの頭数を捕っていたにも関わらず、全身骨格の標本はどこにも残っていないのです。
名護博物館は、県内でも有数のクジラ・イルカの骨格標本を収蔵していますが、ザトウクジラについては下顎の骨や肋骨があるだけで、全身骨格の収集には至ってません。

そんなわけで、ザトウクジラの全身骨格標本の収集は、名護博物館の昔からの願いでした。
新館ができたときには、新しい展示の目玉にもなるでしょう。

しかし、話はそう簡単ではありません。
1966年以降、世界的にザトウクジラの商業捕鯨が禁止され、骨格を手に入れるのが非常に困難になったのです。
すでにある標本を購入するか、資料交換といった手段をのぞくと、新しい標本を手に入れるためには、死体が全国のどこかで流れ着くのを待つしか方法はありません。

今回、幸運にも静岡で打ちあがったザトウクジラを譲って頂けるという話になり、埋設・掘り出しの作業まで行うことができたのは、国立科学博物館をはじめ、国土交通省静岡河川事務所や静岡県土木事務所、大内建設株式会社、西尾製作所、地元大学等から集まって頂いたボランティアの皆さんなど、多くの方々の協力があったからです。

静岡のマスコミにも積極的に取り上げて頂き、道行く人たちも応援の声をかけて下さいました。

骨が見つからず、全身骨格の収集ができなかったことに申し訳ない気持ちで一杯ですが、協力して下さった方々には大変感謝しています。この場を借りてお礼いたします。

(NM)