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名護博物館ブログ

小学校・市内の川の野外学習へ(汽水域編)

今週は小学校の総合学習で、身近な川の河口近く(汽水域)の野外学習を行いました。
前回観察した(こちら中流の淡水域から下流へわずか500mほどの場所ですが、すんでいる生きものは全然ちがいます。
まだ一クラス残ってはいますが、これまでに見つかった生きものなどを紹介します!


一見何もいないように見えますが、オキナワハクセンシオマネキのオスがハサミを振っています。
見つかるでしょうか?

幸地川の河口近くには、マングローブはないし、干潟(ひがた)もせまいです。
シオマネキ類やミナミトビハゼ(沖縄名トントンミー)などは少ないですが、いることはいます。

ケフサヒライソモドキのオス

幸地川の汽水域でおそらく一番多いカニです。
砂利の下などにたくさんいます。


水の中ではわかりやすいですが、ハサミがまさに毛房(ケフサ)!


ハシリイワガニモドキ(黒いバーは1cm)

前に屋部川の記事で紹介したフクロムシこちら)に寄生されているものもいました。


ノコギリガザミ属の稚ガニ(黒いバーは1cm)

大きくなると甲幅が20cmちかくになるノコギリガザミのなかまですが、幸地川では稚ガニはよく見かけるものの、成長した大型個体を見たことがありません。このカニが大きくなれるような環境はないんでしょうね。


ミナミベニツケガニ

沖縄では、ノコギリガザミ類とともに「ガザミ」と呼んでいますね。


テッポウエビのなかま

石やサンゴ片の下に穴を掘ってかくれています。
干潟で「パチッ」と音がしたら、その主は大体テッポウエビのなかまでしょう。
水槽で飼っていると、近づいた敵を威嚇するように大きなハサミで音を鳴らします。



魚の方は、この時期に汽水域を成長の場として利用する種の幼魚がたくさん見られました。


スミゾメスズメダイ

全長2cmほどの幼魚です。オレンジがかった黄色や青のきれいな模様がありますが、成長すると「墨染め」の名の通り、全身黒一色になってしまいます。
成魚までふくめて、護岸のすき間にたくさん見られます。


オキナワフグ

全長2cmほどの幼魚が水際にたくさんいました。
これから秋にかけて、汽水域で成長して10cm近くまで大きくなります。
その後は姿を見かけなくなるので、海へ出ていくのでしょう。
5cmほどになれば、橋の上からも肉眼で簡単に見つけることができます。


ゴマアイゴ

こちらも全長2cmほどの幼魚。成魚はカーエーと呼ばれる釣りの対象魚ですね。
汽水域が広い川では多いですが、幸地川ではやはり少ないです。


ミナミイネゴチ(上から見たところ)

全長3cmほどの幼魚。面白い形をしています。


横から。平べったい。

顔。トゲがいっぱい。
コチのなかまは待ちぶせが得意な肉食魚で、近づいてきた獲物に素早く食らいつきます。


オカメハゼ

全長4cm弱の幼魚。よく似た種で汽水域にはチチブモドキが見られ、そちらの方が多いです。
淡水域にはテンジクカワアナゴが多く、これら3種はとてもよく似ていますが、オカメハゼの幼魚は、尾びれの縁に透明な部分があるので見分けられます。


今回一番の発見は、このウツボが1個体見つかったことでしょうか。
ウツボといっても、20cmほどの小さい種です。

名前は伏せておきますが、市内でもマングローブ干潟の発達した限られた川でしか見つかっていない、めずらしいウツボです。見つけたケンシン君は大喜びでしたね。
環境的には、このウツボが好みそうな場所ではないので、数は少ないと思います。


手網でなかなか捕まらない魚は、投網を使って採集・観察しました。


インコハゼ

写真ではわかりにくいですが、けっこう派手な色をしています。


ユゴイ(沖縄名ミキユー)

汽水域〜淡水域まで広く見られる代表的な淡水魚。
前回の淡水域の学習と今回の学習の両方で見られた数少ない生きものの一つです。


オニヒラアジ(沖縄名ガーラ)の幼魚


ゴマフエダイ(沖縄名カースビ)の幼魚


オキフエダイ(沖縄名スビイナクー)の幼魚

これら3種は、どれも成長すると50cmをこえるような大型の海産魚ですが、幼魚のうちは汽水域でよく見られます。沖縄名があることからもわかりますが、昔から食用にされてきた魚たちです。

汽水域には、食用として大事な魚の幼魚がたくさん見られることも特徴の一つです。
このような少し大きめの魚は、潮が引いたときに身を隠せるだけの深い場所が残っていないと見ることができません。この場所には、排水口の下に深みがあって、大きめの魚が潜んでいます。水はきれいとは言えませんが・・・

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さて、小学校の総合学習で幸地川の観察を行うのも今年で6年目になりました。
今回の汽水域の学習では、これまであまり見られなかった生きものが見られたな・・・という印象です。
一部は持ち帰って博物館の水槽で飼育していますので、ぜひご覧ください。
ちなみに、その他は観察後に川に返しました。


ところで最近、幸地川の河口域は底質がずいぶん変わりました。
それも2015年の間に急激に変化しました。
底質の詳細なデータは取っていませんが、写真を見ればその変化は一目瞭然です。



上が2015年2月、下が2016年3月の河口近くの写真です。
2015年は礫(れき)が多く、ザラザラした感じに見えます。
2016年は礫が減り、ほとんどが砂や泥になっています。



違う角度から。

2015年2月には、橋の向こう側に石積護岸が見えますが、2016年3月は砂で埋まっています。
2015年6月に調査した時にこの変化はすでに起こっており、そのまま現在に至ります。この4カ月の間に環境を急激に変化させる何かがあったはずです。おそらく人為的な影響だと思います。

今回の学習もそうでしたが、環境が変わってからの河口域では、泥っぽい環境を好む魚やカニの姿を見かけることが多くなりました。こうした生きものにとっては、くらしやすい環境になったのかもしれません。

でも、このまま河口に砂が堆積し続けるのは問題です。

底質の変化と関係があると思いますが、幸地川やその隣の世冨慶川では、河口域の砂の堆積が進んでおり、河口が閉じてしまう河口閉塞(かこうへいそく)の現象が、ここ数年で見られるようになってきました。

河口が完全に閉じてしまうと、川と海を行き来する多くの生きものは移動できなくなってしまいます。
今回の学習で見られた多くの魚も川へ入ってくることができなくなります。
また中流で見られるほとんどの生きものも海から上ってくるので、大きな影響が出ます。
そうなると、川で見られる多くの生きものは姿を消してしまうでしょう。

今後も、注意深く観察していく必要があります。


河口近くでは、あいかわらず捨てられた自転車などのゴミを見かけます。
こういった光景は、一刻も早くなくなってほしいですね。

(NM)

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