日々のなごはく。

名護博物館ブログ

名護市内のイボイモリ卵がふ化!

このブログで最近たびたび登場していた沖縄県指定天然記念物のイボイモリ
先日の夜、名護市内で卵からふ化した幼生を確認しました。


イボイモリ Echinotriton andersoni の幼生(右)
と、リュウキュウルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis ryukyuensis の幼虫(左)
(2018年5月3日 名護市内)
3〜4月はイボイモリの産卵シーズンのピークで、産卵場所の周辺では、今年も歩き回る成体をたくさん見かけました。
一晩で、成体を40個体以上見かけた日もありました。
このブログでも取り上げてきましたが(こちらこちらなど)、この時期に林道などで車にひかれてしまう事故がよく起こります。

今回も歩き回っている成体を確認しましたが、見かけた数はだいぶ減ったので産卵のピークは終わりつつあるようです。
もっとも、この日の天気は小雨で気温15.4℃と、前日までに比べるとかなり冷えこんでおり、成体の活動が鈍っていたことも考えられます。


産卵場所付近を歩き回るイボイモリの成体(2018年5月3日 名護市内)

イボイモリは、川の源流付近の水の流れがほとんどないような場所の水辺で産卵します。
両生類であるイボイモリは、幼生の間は水中で生活するため、水のある環境が必要です。
でも、卵は水の中には産まず、水際から少しはなれた陸上の落ち葉の下などに産みつけるという面白い習性があります。


イボイモリの卵(2018年5月3日 名護市内)

上の写真はイボイモリの卵が10個ほど写っていますが、どこにあるかわかるでしょうか?
ふつう、イボイモリの卵には泥などが付き、慣れていないとなかなか見つけることはできません。

ただ、産卵シーズンがピークを迎えると水際の周辺が卵だらけになるので、泥にまみれていない卵もわずかに見つかることがあります。



イボイモリの卵(2018年5月3日 名護市内)

卵の中ですくすく育つ幼生の黒い眼が見えています。

イボイモリの卵は、産卵から約1ヶ月でふ化します。
ある文献では、ふ化までに22〜27日かかるとされていました*1
この場所では定期的に観察しており、今年初めて卵を見つけたのは3月10日でしたが、本格的に産卵が始まったのは4月中旬に入ってからでした。
そして、4月19日に観察した時点では、幼生はまだ見られませんでした。

ふ化は雨の日に見られることから、5月2日の夜に降り始めた雨で本格的にふ化が始まったと思われます。
(なお、別の場所では、もっと前にふ化した幼生を確認しています)


ふ化直後のイボイモリ幼生(2018年5月3日 名護市内)

上の写真を見て、幼生は水の中にいるんじゃないの?と思った方もいるかもしれません。
念のため言っておきますが、決して水中から幼生を取り出して陸上に置いたわけではありません!
雨の日にふ化した幼生は、自分の力でピョンピョン飛びはねて陸上から水中へ移動するのです。
地面が乾いていると、あっという間に干からびてしまうでしょう。
この日は小雨で、ふ化したばかりで水中へ移動中の幼生も見つけることができました。


水中のイボイモリ幼生(2018年5月3日 名護市内)

大きさ20 mmほどのふ化して間もない幼生たちです。
この場所で30〜40個体が見られましたが、過去の観察例では数百個体が一度に確認されたこともあるので、今後どんどん増えていくと思われます。


リュウキュウルリモントンボの幼虫(ヤゴ)とイボイモリ幼生(2018年5月3日 名護市内)

イボイモリの幼生がくらす環境は、浅い水たまりのような場所が多く、外敵となるような大きな魚類やエビなどはふつう見られません。
そんな場所には、写真のようにリュウキュウルリモントンボの幼虫が見つかることが多いです。
過去の観察では、このトンボの幼虫がイボイモリの幼生をつかまえて食べていたことがあります。

ちなみにリュウキュウルリモントンボの成虫は、こんな感じです。


リュウキュウルリモントンボのオス成虫(2014年5月9日 名護市内)

上の写真は、以前に同じ場所で撮影したものです。
やんばる(沖縄本島北部)の川の源流ではリュウキュウハグロトンボと並んでふつうに見られるトンボだと思います。


イボイモリ幼生と同じ場所に見られた生きもの(2018年5月3日 名護市内)

こちらは、イボイモリ(黄)とリュウキュウルリモントンボ(黒)、アラモトサワガニ(赤)の3者が集まって、色とりどりです。
アラモトサワガニ Geothelphusa aramotoi は、名護市内で一番ふつうに見られるサワガニで、水のきれいな川の上流や源流でよく見かけます。
上の写真は、甲幅が10 mmほどの幼ガニです。
大きくなっても甲幅は30 mmを少しこえるぐらいで、沖縄本島で見られるサワガニ5種の中では一番小さいです。

ちなみに、一枚の写真に収まっているのは、別にヤラセではありません(笑)
このような状況がふつうに見られるくらいの数が集まっていたということです。
ただ、面積的にはとても狭いので、数が非常に多いというわけではありませんが・・・

アラモトサワガニは、イボイモリの幼生にとっては外敵にはならないのでしょうか?
なお、イボイモリの幼生は共食いすることも知られており、実際に見たこともあります(こちらの記事)。

これまで紹介した名護市のイボイモリ(卵や幼生など)について動画で見たい方は、数年前のものですが、Youtubeに投稿していますのでそちらでご覧ください → こちら

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さて、上の写真で並んでいる3種は、名護市内ではわりと普通に見られる種ではありますが、沖縄県が2017年に刊行した「改訂・沖縄県絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版(動物編)」に3種とも掲載されています。

イボイモリ沖縄諸島奄美群島の一部だけに生息する固有種、
アラモトサワガニ沖縄本島伊平屋島の固有種です。
リュウキュウルリモントンボ沖縄諸島の固有亜種で、沖縄本島では普通種ですが、周辺にある慶良間諸島伊平屋島では絶滅が心配されています。

名護市内で今は普通に見られるこの光景、ぜひ未来に残していきたいものです。

(NM)

*1:宇都宮 泰明・宇都宮 妙子, 1977. イボイモリ(Tylototriton andersoni)の発生. J. Fac. Fish. Anim. Husb., Hiroshima Univ., 16:65-76.