日々のなごはく。

名護博物館ブログ

名護市内の川の生きもの(淡水域) 2018

今年に入ってから、忙しさを言い訳にほとんど市内の川の潜水調査に行ってませんでした。
少し前のことですが、久々に水中の様子を見てきたので紹介します!


美しいナンヨウボウズハゼのオス (2018年6月 名護市内)
Stiphodon percnopterygionus male

一つ前の記事でも少しふれましたが、川の環境は日々変わっており、台風などの後には景色が様変わりすることがよくあります。
また、お気に入りの観察ポイントが、前触れもなく開発等で消えていた・・・というような悲しい場面に出くわすこともあります。

川で見られる生きものも、当然のように年ごと、季節ごとに個体数、分布などに変化が見られます。
同じ川に足しげく通って、そこで見られる生きものを記録することは、情報という名の地域の宝を次世代に残すという意味合いでとても大事なことです。
これは、博物館の学芸員が扱う他のどの分野でも共通して言えることでしょう。

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さて、今回足を運んだのは、潮の干満による海水の影響を受けない淡水域です。
淡水域の中でも、山の中の渓流ではなく、近くに人家などもある平地です。
沖縄の川で見られる魚類やエビ、カニ、貝類などの多くは、生まれてからしばらくは海で過ごす期間があり、その後に川へやってきて成長しながら上流へ上っていきます。

そのため、滝などの障害が多い上流へ行けば行くほど、流れに逆らって川を上る能力の低い生きものの姿は見えなくなります。
上流では希少種に出会えることもありますが、基本的には見られる魚類やエビ・カニなどの種数は減っていくのです。
一方で、低地の平地を流れる淡水域では、海から上ってきてその場所で生活する様々な種を見ることができます。

最初の写真で紹介したナンヨウボウズハゼは、川の中流〜上流で見られる3〜4 cmほどの美しい淡水魚です。
繁殖シーズンにオスが宝石のように輝きます。

美しい色はメスにアピールするためと考えられており、婚姻色(こんいんしょく)と呼ばれています。
このように婚姻色がはっきり出ているオスは縄張りを持っており、近づいてきた他のオスなどを追っ払います。
まずは、鰭(ひれ)を広げて自分を大きく見せますが、それでも相手が引かない場合は、実力行使で攻撃に移ります。

こちらは、同じナンヨウボウズハゼのオスの集団です(メスっぽいのも混じっていますが・・・)。
婚姻色が出ておらず、なかよく(見える)一緒に食事をしていました。
ボウズハゼのなかまは、石などに付いた藻類(そうるい)を下向きの口ではぎとるようにして食べます。
(食事の様子などはこちらの記事で紹介しています)


ちなみに、婚姻色の出たナンヨウボウズハゼのオスをきれいに撮影するのは、なかなかにムズカシイです。
まず、鰭を立てるのは相手を威嚇するわずかな間などに限られます。
そして、自然光の下で見る美しさは、ストロボで撮影すると再現が難しいです。
上の写真は、ストロボを使わないで撮影していますが、私が使っているカメラではシャッタースピードを速めないとぶれてしまうので、明るい環境が必要です。
しかし、そのような良い条件がそろっているとは限りません。

まぁ、忍耐力があればそう大変なことではないのですが、幼少の頃から落ち着きがないと言われ続けてきた私にはなかなかの苦行です(笑)

これは以前に同じ川で撮影したナンヨウボウズハゼのオスですが、
ストロボを使うと光が反射して、このようなギラギラした感じの写りになります。
ずいぶん印象が変わると思います。
これはこれでキレイですが、私は個人的に自然下で見る色の方が好きです。


さて、今回、この川の何カ所かで観察しましたが、ナンヨウボウズハゼはほとんど姿が見えませんでした。
2年前の同じ時期の観察記録を見返してみると、一つの観察地点で50個体以上観察できていた場所もありましたが、今回同じ地点では2個体しか見つけられませんでした。

それは一体なぜなのか・・・色々と要因を考えてみるのですが、なかなか因果関係を証明するのは難しいです。


ルリボウズハゼのオス (2018年6月 名護市内)
Sicyopterus lagocephalus male

同じボウズハゼのなかまですが、こちらは少し大きくて10cm近くになります。
流れの速い場所を好みます。


イッセンヨウジ (2018年6月 名護市内)
Microphis leiaspis male

早瀬の川底をするすると泳ぐイッセンヨウジがいました。
淡水域でよく見られるこの細長い魚も、年によって多かったり少なかったりします。


おなかが少しオレンジ色だな〜と思っていたら・・・


卵を持っていました!
オレンジ色のツブツブが見えるでしょうか。
卵を持っているといっても、これはオスです。
イッセンヨウジのなかまは、オスの腹部などにある育児嚢(いくじのう)にメスが卵を産みつけます。
ふ化するまで卵はオスが守ります(詳細はこちらこちらの記事)。


タネカワハゼ (2018年6月 名護市内)
Stenogobius sp.

今回の観察で一番目立っていたのがこのタネカワハゼ。
川底の小さなエサをついばむようにして食べるおとなしいハゼです。
この魚も年によって・・・以下同文!


クロミナミハゼ (2018年6月 名護市内)
Awaous melanocephalus

少し水深のあるところで、10 cmをこえるクロミナミハゼがいました。
警戒心の強い魚でなかなか近づかせてくれません。
この魚は臆病で、すぐに川底の砂の中などに潜ってかくれてしまいます。

このように川底にたまった落ち葉などの下に潜んでいることもあります。
どこにいるかわかるでしょうか?

川底の落ち葉がたまっている場所に不意に手をついたとき、そこからシュッと飛び出してくることがあります。
むこうもビックリしたでしょうが、こっちもビックリです(笑)


タメトモハゼ (2018年6月 名護市内)
Ophieleotris sp.

同じように川底の落ち葉などの下に潜んでいる魚としてタメトモハゼがいます。
このブログでも何度か紹介した(こちらの記事など)、名護市と深い関わりのある淡水魚です。


タメトモハゼ (2018年6月 名護市内)

タメトモハゼは、胸鰭(むなびれ)をヒラヒラ動かして水中でホバリングする習性があり、こちらのイメージの方が一般的に強いような気がします。
そのような姿が見られるときは、周囲にすぐ身を隠せる植生や倒木などがあることが多いです。
2017年に改定された沖縄県レッドデータブックで絶滅危惧II類に指定されていますが、姿が見られるときは数個体で群れていることが多いです。



ザラテテナガエビのメス (2018年6月 名護市内)
Macrobrachium australe female

川岸に生えている樹木は、水中に根を伸ばしていることがよくあります。
そのような根のすき間は、テナガエビやヌマエビのなかまが身をかくす絶好の場所です。


ヒラテテナガエビのメス (2018年6月 名護市内)
Macrobrachium japonicum female

こちらのテナガエビは、流れの速い場所の川底の石の下に身を隠します。
同じテナガエビのなかまでも、好む場所は十人十色です。
上の写真の個体は、一般的なヒラテテナガエビの体色に比べると黒っぽい気がします。
魚類やエビ類は、周辺の環境などに合わせて、体の色をずいぶん変化させます。
採集して陸上でみる体色と自然下でみる体色、飼育して水槽の中でみる体色・・・それぞれ、かなり違う印象を受けます。

そのような変化を観察するのも、自然観察の楽しみの一つです。

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さてさて、今回の調査では、ナンヨウボウズハゼのほかにも、いつもなら普通に観察できる何種かが見つかりませんでした。
これは年変動なのか、台風の影響などによる一時的な現象なのか、それとも環境変化などによる個体数の減少なのか・・・

そんなことを考えつつ、今後も注意して観察を続けていきたいと思います。

(NM)