日々のなごはく。

名護博物館ブログ

久々に川の水中観察へ

今年に入ってからやんばるの川(水中観察)へなかなか行けてなかったのですが、5月末に久々に足を運んでみました。

f:id:nagohaku:20190530142416j:plain

アオバラヨシノボリ(2019年5月27日 名護市内)

今回足を運んだのは、東海岸のある川です。
この川は、やんばる(沖縄本島北部)の固有種アオバラヨシノボリが生息していることが知られています。 1990年代には、読谷村沖縄本島中部)の川などにも生息していた記録がありますが、開発等による生息環境の悪化によって中部では絶滅してしまった可能性が高いです。2017年に改訂された沖縄県レッドデータブック第3版では、最も絶滅が心配される絶滅危惧ⅠA類に指定されています。

これまでも紹介してきましたが、沖縄の川で見られる魚やエビ、カニ、貝類などは、一生のどこかで川と海を行き来する種が圧倒的多数を占めます。

しかし、アオバラヨシノボリは、一生を川の中上流域で過ごす沖縄ではかなりめずらしいタイプのハゼです。

沖縄本島の川(陸水域)から、これまで400種以上の魚が見つかっていますが、そのうち、一生を淡水域ですごす種外来種のぞく)はわずか7種のみです。

f:id:nagohaku:20190605191701j:plain

アオバラヨシノボリ(2019年5月 名護市内)

上の写真はオス。アオバラヨシノボリのほかに、石で自分の巣を作るオキナワニンギョウトビケラの幼虫(右下)や上流を代表する巻貝・カワニナ(上の奥のほう)なども写りこんでいます。

 

f:id:nagohaku:20190605191703j:plain

アオバラヨシノボリの稚魚(2019年5月 名護市内)

アオバラヨシノボリは、沖縄で見られるほかのヨシノボリに比べて大きめの卵を産み、発育の進んだ状態で子どもがふ化することが知られています。

上の写真は、水面近くを漂うように泳いでいる稚魚。大きさは1cmちょっとしかないので、撮影はなかなかムズカシイ!

それはさておき、海から上ってくる外敵が少ない上流域だからこそ、このようなのんびりとした浮遊生活が成り立ちます。大型の遊泳魚(ユゴイなど)がたくさん見られる中流下流では、あっという間に食べられてしまうでしょう。

長い年月の間に、海へ出るのをやめて淡水域で世代交代を繰り返すように進化した種は、大きめの卵を産んだり、発育の進んだ子どもを生む傾向があります。

沖縄の川では、魚だとアオバラヨシノボリのほかにキバラヨシノボリ、貝類だとカワニナ(胎生)、甲殻類だと、サワガニのなかま、西表島で見られるショキタテナガエビなどが当てはまります。

 

このような生活を送る種は、外界とほとんど交流を持たず、限られた範囲内で世代交代を繰り返しているため、その場所に固有の遺伝的特徴を持っていることがあります。

上で挙げた種の多くも、島ごと、水系ごとに固有種であったり、固有の遺伝的特徴を持っていることが知られています。

彼らが生息している場所へいくと、限られた環境内で驚くほどたくさんの個体が見られることが多く、彼らにとっての楽園なんだなぁ・・・ということを実感します。移動することをやめて、狭い範囲に適応してくらすよう進化した賜物とも言えるでしょう。

一方で、外部からの環境変化には弱く、開発や外来種などの進入によって、あっけなく絶滅する危険性があることもよく知られています。

実際の例を挙げると、名護市内では羽地ダムができた影響で、羽地大川の中上流域に生息していたアオバラヨシノボリが姿を消してしまったという苦い過去があります。

そこへ至った経緯として2つの段階があり、1つ目はダムができたことによって生息場所の多くが消えてしまったということ、2つ目はダムができたことによる環境変化によって新たに増えた生きものとの競争に敗れてしまったこと、が挙げられます。このようにして、残った個体群も絶滅してしまったと考えられています。

f:id:nagohaku:20190605191600j:plain

川の景色(2019年5月 名護市内)

アオバラヨシノボリは、どの川のどの場所にどの程度の数が生息しているのか、あまり情報のない種でもあります。

今回足を運んだ川もいくつか支流があり、どこまで本種が分布しているのかはっきりしません。私は今回はじめて上の写真の場所(支流の上流域)に足を運びましたが、アオバラヨシノボリの生息場所としては、よい環境が広範囲に続いているようでした。

名護市は広く、支流まで入れるとゆうに100以上の川があります。支流一本だけ抜き出しても、端から端まで調査するのは大変です。

また、上流域は滝も多く、足を運ぶのが大変な場所でもあります。
そのため、アオバラヨシノボリの詳細な生息分布については、まだ謎が多いのです。

また、一度調査をして終わったら一安心というわけにもいきません。
その後も継続して調査しないと、気づいたら絶滅していた、なんてことになりかねません。
名護市内にあるこのハゼの重要な生息河川では、過去と比べて分布が上流側に狭まっているという報告例もあります。

継続して調査を続けるのはなかなかムズカシイですが、まずはどの川にいるのか明らかにすることが大事です。

 

さて、久々の水中観察だったにも関わらず、カメラのバッテリーが切れてしまったため、あまり写真は撮れませんでした・・・

f:id:nagohaku:20190530142414j:plain

ヌマエビ(2019年5月 名護市内)

沖縄では沼にいない、上流域でよく見かけるヌマエビ。

 

f:id:nagohaku:20190530142415j:plain

ヒラテテナガエビ(2019年5月 名護市内)

手は短いですが、流れの速い早瀬にいたヒラテテナガエビ

f:id:nagohaku:20190530142417j:plain

フタキボシケシゲンゴロウ(2019年5月 名護市内)

アオバラヨシノボリを観察していたら、川底をチョロチョロ動く昆虫が。
テントウムシのような模様をしたフタキボシケシゲンゴロウでした。
おしりに呼吸用の空気泡がくっついていますね。

 

なお、今回は名護博物館友の会の何名かの方と一緒に足を運んだのですが、マクロレンズを装着していたので、残念ながら景色等の写真は一切ナシ!

 

あまり時間がなく、支流の最上流部まで行けなかったので、また再チャレンジしたいところです。

 

(NM)