日々のなごはく。

名護博物館ブログ

ハブの3Dスキャン金型

博物館が集めている資料は、展示以外にも様々なことに活用されます。
一般的には、調査・研究や教材、 観光分野への活用などでしょうか。

この可能性は無限大!だと、私は声を大にして言いたいです。

今回、名護博物館が保存しているハブの資料を使って、「一般社団法人 ものづくりネットワーク沖縄」(以下mdn)の皆さんが、3Dスキャンによるハブ金型製作にチャレンジしました!

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製作されたハブ頭部の金型加工(mdn沖縄 提供)

mdnの皆さんからは、最初当館に「3Dスキャンが可能なハブのはく製はありませんか?」とう相談がありました。

名護博物館の展示室には、ハブのはく製がありますが、残念ながら出来が良いとは言えません。また、スキャンしたいのは、ハブが口を開けている瞬間のもの、とのこと。

爬虫類のはく製を生きている頃のようにリアルに作るのは、なかなかムズカシイです。
ましてや、口を開けた状態で中の歯などの詳細まで再現されたはく製となると・・・あまり見たことがありません。

最近では、体内の水分を樹脂に置き換えてしまうプラスティネーションの標本作製技術も普及しつつあり、はく製よりリアルな標本を作ることができます。

知り合いにそういったものをたくさん作っている人がいるので、それならどうかなぁ・・・などとアレコレ考えを巡らせましたが、最終的には、冷凍された生のハブをスキャンしてみよう!という話に落ち着きました。

これまでもこのブログで紹介してきましたが、名護博物館には、市民や関係者の皆さんから様々な動物の死体が持ちこまれます。
その中には貴重なものが含まれていることも少なくありません。良い資料を集めるためには、日頃からネットワークを構築しておくことが大事です。

今回活用したのは、そのようにして収集し、標本作製前に冷凍庫で保存していたハブです。しかし、口を開いた自然な状態でスキャンできるかどうかは、やってみなければわかりません。

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冷凍ハブを解凍し、姿勢を整える

まずは、冷凍ハブを解凍し、口を開けて攻撃している姿をイメージしながら整形してみました。
ハブは攻撃に移る前に、首をS字の形に曲げて持ち上げます。
すぐに攻撃に移れる姿勢で、このときには口を開けてはいません。下の写真のようなイメージです。

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攻撃態勢のハブ(2018年3月 大宜味村

攻撃するときは、この態勢からバネのように首を伸ばし、獲物に噛みつく瞬間に口を開けます。
つまり、首を曲げた状態で口を大きく開けたりはしないだろう・・・
・・・そんなことを考えながら、首を伸ばした姿勢で口を可能な限り開き、固定しました。

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ハブの口を開けて、牙などを露出させる

ハブといえば長い毒牙ですが、口を閉じているときはヒダに包まれた状態で折りたたまれて収納されており、見えません。
噛み付く瞬間、頭をたたきつけるようにして毒牙を突き立てるそうです。
口は大きく180°ほど開くと思うのですが、これ以上は開きませんでした・・・

なお、この個体は長い毒牙が4本ありました。
通常は1対2本ですが、毒牙の生え変わりの時期に4本になるようです。

この状態で再度冷凍庫で保管し、姿勢を固定しました。

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3Dスキャニングの様子

後日、博物館に機材が運びこまれ、再冷凍したハブを3Dスキャン!

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3Dスキャニング中の再冷凍ハブ

冷凍庫から出したハブは、霜が付いて白くなっていましたが、mdnの皆さんによるとハブの黒い模様はスキャニング時にエラーになりやすいため、この方が良いとのこと。

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PCによるスキャン画像の確認

3Dスキャンされたデータはパソコンに送られ、リアルタイムでチェックできるようでした。

結局、この日はうまくスキャンできなかったので、持ち帰ってmdnさんの工場で試行錯誤することに。

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完成したハブ頭部の3Dスキャン金型(mdn提供)

そして先週、無事完成したという連絡を頂きました。全身は難しかったので、頭部のみを再現したとのこと。試行錯誤や悪戦苦闘があったものと思います。
この企画は、先週末に那覇で開催された「沖縄の産業まつり」で出展することを目標にしており、無事展示にも間に合ったようです。

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細部まで再現されたハブの金型(mdn提供)

細かい鱗の様子まで再現されています。
残念ながら展示は見に行けなかったのですが、迫力があり来場者から好評だったとのこと!
良かったです!
mdnの皆さん、お疲れ様でした!

製作過程の様子は、下記mdnのYouTubeチャンネルで動画紹介されていますので、ぜひご覧ください。

https://youtu.be/z9rpgbNP3RM

 

・・・さて、今回の試みは、博物館資料の活用の可能性を模索するという意味で、私にとっても良い経験になりました。

今回の試みの中で、このハブを後々標本化する際に悪影響はないか、ということが常に頭の片隅にありました。姿勢を固定化した状態で長期間冷凍庫に入れておくと、資料が乾燥焼けをおこして後々標本にできなくなるリスクが考えられたからです。
スキャンが終わったハブは無事元の保存状態に戻すことができたので、ホッとしました。

冒頭に書いたように、博物館資料は様々なことに活用できると考えていますが、「保存」という博物館の最重要使命と「活用」は、性質的に相反する部分が多々あります。そのため、博物館界において資料の活用のあり方について議論の的になりやすいのです。

資料の重要性や種類によって、保存への悪影響を可能な限り小さくする活用範囲や手法を選択する必要はありますが、一方で、博物館の存在意義を広く知ってもらうためにも、資料の様々な活用方法について、考えていく必要があると考えています。

(NM)