日々のなごはく。

名護博物館ブログ

新しい顔ぶれ 〜平成28年度に作った自然史標本〜

先日、第一展示室のネコのはく製の話をしましたが(記事はこちら)、
平成28(2016)年度は、他にも鳥類を中心に計10点のはく製・骨格標本を委託作製しました。

その一部を紹介します!


オオルリの本はく製
こちらの記事で紹介したオオルリをはく製標本にしました。
名護小学校近くで死体で見つかり、博物館に届けられたものです。
当館では、はく製などの鳥類登録標本が現在270点ほど収蔵されていますが、オオルリ初の標本となります。


オオバンの本はく製

こちらは、博物館近くの民家で死んでいたものを収集してはく製にしたものです。
オオバンは、冬を越すために沖縄へやってくる冬鳥です。
発達した水かきを使って水面を泳いでいる様子を再現しました。

また、以前紹介したように(こちら)、標本は専門業者に委託して作製するほかに、もちろん自分たちでも作ります。


去年作製したアカショウビンの仮はく製

標本にもいろいろ種類がありますが、学校の理科室でおなじみのホルマリンやエタノールに浸かっている液浸(えきしん)標本もたくさん作っています。
たとえば・・・


ヒスイボウズハゼ(オス)の標本

名護市の川でも見られるこのハゼは、2012年に新種として発表されたのですが、
上の写真はその年に当館が行った企画展(こちら)で初めて飼育展示した個体です。
企画展が終了した後も約4年に渡って飼育していましたが、残念ながら去年の10月に死んでしまったので標本にしました。

私は市内を中心にやんばるの川に行く機会が多いので、その際に採集した生きものの標本を作ることがよくあります。


アミメカワヨウジの標本(2016年11月12日 名護市の川で採集)


コツノテナガエビの標本(2016年11月14日 今帰仁村の川で採集)

このような液浸標本は、しばらくすると体の色がほとんどなくなってしまうのが普通です。
上の写真は、まだ新鮮で色が残っているときに撮影したものです。

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さて、標本は、学術研究の他にも、展示やワークショップなどの教育目的でも使われます。
冒頭に挙げたネコの例は、展示で使うので教育を目的とした標本です。

また、標本はその場所にその生物が生息していたことを示す最も確実な証拠となります。
(ただし、「いつ」、「どこで」収集したかといった「情報」が標本と一緒に保存されていることが前提です)

写真もある程度の証拠にはなりますが、標本には勝てません。
たとえば、「今までA種とされていた生物に、外見がよく似たB種、C種の2種が含まれていた!」というケースを考えてみます。
分類学の研究が進めば、このようなことは日常茶飯事に起こります。

このとき、これまでA種として記録されていた写真を、B種、C種のどちらかに見分けられるでしょうか?

・・・専門家でも、このような場合はかなり難しいと思います。
生物の種を見分けるときにキーとなる特徴が、写真ではよくわからないことが多いからです。

そんなときも、標本があれば直接本物を調べて、どちらか判断することができる可能性が高いです。
(一方で標本になると失われてしまう情報・・・たとえば体色などを記録する場合は写真の方が圧倒的に優れています)

生物の種は、地域の自然に育まれて長い年月の間に分化していくので、そこで見られるのがB種なのかC種なのかということは、地域の自然環境を考えるときに重要な意味を持ちます。

こういった点から、標本は単にその生物の存在の証拠となるだけでなく、数十年後、あるいは数百年後に、過去の人々の生活(自然の利用方法)や自然環境の状態を知るための大事な手がかりにもなり得るでしょう。

だから、希少生物だけでなく、今何気なく過ごしている日常、身近で見られるありふれた生物でも、標本として残すことは大事なことなんですよ!

関心のある方は、ぜひ下の記事もご覧ください。

博物館資料収集・登録のおはなし PART 1. 自然史―はく製・骨格標本

(NM)