日々のなごはく。

名護博物館ブログ

イボイモリの子、受難の日々!

市内の川の源流近くを歩いていて、沖縄県の天然記念物であるイボイモリの幼生を見つけました。
この季節、イボイモリがすんでいる場所に行くと、よく見かけます。


イボイモリ Echinotriton andersoni の幼生(2015年5月撮影)
ふ化して間もないと思われます。

少し拡大。頭の横から出ている外鰓(がいさい)が目立ちます。


別の川の幼生(2015年6月撮影)。だいぶ大きく成長してイモリらしくなってきています。
ここではイボイモリの成体は見たことないですが、かなりの数の幼生がいました。
ということは、成体もいるということですね。

さて、これらの写真は水の豊かな川で撮ったものです。
前回(こちら)、梅雨に入って枯れていた川の水量が回復した話をしましたが、今年は梅雨に入るのが遅かったと思ったら、明けるのも早かった!
もう1週間以上も雨らしい雨が降らず、暑い日々が続いています。
このまま行くと、また枯れてしまう川が出てきそうです・・・

ダムの水量もかなり少ないようで、水不足を心配する声もチラホラ聞こえますが、雨の少なさは、私たちだけでなく、生きものたちにとっても死活問題です。

博物館の近くの沢の上流に、去年はイボイモリの産卵がよく観察できた場所があったのですが、今年の梅雨前は雨不足で完全に水が干上がっていました。
イボイモリは、水際から少しはなれた地面の落ち葉の下などに卵を産みます。
3月にこの場所で卵を探してみましたが、やはり水が全くないためか見つけられませんでした。


メスと思われるおなかの大きい成体はウロウロしていましたが・・・

そんなこんなで、今年はこの場所での観察をあきらめていましたが、
梅雨で少しは水量も回復したかなぁと思って、一昨日様子を見に行ったところ、一応水がちょろちょろ流れています。
・・・といっても、地面をぬらす程度で、水が流れていると言うにはほど遠い感じですが・・・

「こりゃダメだな」とは思いましたが、よく見てみると・・・いました!

直径45cmほどの水たまりの中に、ところせましとイボイモリの幼生が16匹。
この水たまり、一番深いところでも1cm足らずで、水たまりと呼んでいいのか迷うレベルですが・・・

ところで、イボイモリの卵がふ化するまで、22〜27日ほどかかるそうです*1
去年の観察でも、卵を見つけてからふ化まで最短で23日かかっていました。

ということは、この幼生がふ化したばかりと仮定した場合、産卵されたのは5月23日より前ということになります。
実際には、発育の感じからふ化後数日経っているように見えます。
今年の沖縄の梅雨入りは遅く、名護では5月19日にようやく雨が降り出したので、梅雨に入ってすぐに産卵したということでしょう。

イボイモリは連続的に雨が降った後に集中的に産卵することが知られていますが*2、5月18日にこの場所を確認したときに水は全くなかったので、19日から雨が降り出したものの、24日に大雨が降るまで、水はほとんどなかったと思われます。そんな場所にも卵を産んでしまうとは・・・よほど雨を待ちかねていたのでしょうか。

このまま雨が降らず、カンカン照りが続けば、この水たまりの寿命は長くないかもしれません。
幼生は、変態して上陸するまで約2か月を水中ですごすので、彼らの未来は・・・暗いですね。
雨が降るよう、祈っています!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 オマケ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

機会を逃していたので、同じ場所で観察した去年の産卵の様子などを紹介!

3〜4月は、産卵のために夜ウロウロしている成体をよく見かけます。
林道のまん中でじっとしていたりするので、車が通るときに危なっかしいです。


実際、道路で力つきたり、車にひかれて死んでしまった親を見かけることもあります。


卵はゼリーに包まれています。
普通は、泥などがくっつき中は見えなくなりますが、この卵は木の根のすき間に産みつけられており、水が流れやすい場所だったためか、きれいに中が見えました。
ラッキー!


一番左は、幼生が出た後の抜け殻。
ふ化は雨が引き金になって始まります。
面白いことに、明らかにふ化できるサイズまで育っているのに、なかなか出てこない幼生もいます。
雨の強さやタイミングの問題でしょうか。


幼生は、ふ化するとピョンピョンとびはねて、水場まで移動します。
なるほど、雨が降っていないと干からびてしまいそうですね。
写真は、ふ化直後に水場へ移動する途中の幼生です。
雨の中を待ち続け、ようやく撮れました。


無事に水場までたどりついた幼生。


去年は多いときで、一か所に100個体以上は軽くいました。
時には共食いも発生!


先にふ化した幼生にとって、後からふ化してやってくる新参者はエサにしか見えていないかも・・・


このような過酷な世界を生き抜いて、無事変態して上陸するイボイモリはわずかなんでしょうね。
厳しき世界です。

【動画】2014年3月〜6月 名護市内で撮影

【高画質でみたい方はこちら

(NM)

*1:宇都宮 泰明・宇都宮 妙子, 1977. イボイモリ(Tylototriton andersoni)の発生. J. Fac. Fish. Anim. Husb., Hiroshima Univ., 16:65-76.

*2:又吉 盛健・大城 信弘・喜友名 孝子・干川 裕・三井 興治・熊谷 英子, 1978. イボイモリの産卵について. 沖縄生物学会誌, 16:11-16.