日々のなごはく。

名護博物館ブログ

ストップ!ロードキル!イボイモリ注意報

ここ数日暖かい日が続いています。
先週末は、名護市内で見つかったイボイモリ沖縄県指定天然記念物)の交通事故情報が当館に寄せられました。

↓ ややショッキングな写真(車にひかれたイボイモリの写真)が出てきます。



交通事故(ロードキル)にあったイボイモリ
Echinotriton andersoni (2018年2月17日 名護市我部祖河)

これから迎える3月、4月はイボイモリの繁殖シーズンのピークです。
これまでにも紹介してきましたが(こちらなど)、彼らが活発に動き回るこの時期、林道などで車にひかれてしまう事故がよくおこります。

今回の事故は、畑に隣接する農道でおきました。
時期的にはまだ早い気がしますが、暖かくなったので出てきてしまったのでしょう。
事故にあった個体は、全長18.3cm。
イボイモリの中ではかなり大きなサイズです。

イボイモリの寿命についてはよくわかっていませんが、10年は生きると考えられているようです。
今回不幸にも事故にあってしまったイボイモリも、大きさからしてかなり長生きしていたかもしれません。

イボイモリは世界的にみると沖縄諸島奄美群島にしか生息していない貴重な両生類で、県の天然記念物に指定されています。
ただ、森や川の豊かな名護市では、市街地の近くで出会う機会もある動物です。
産卵は水辺で行われるので、特に沢が近くにある林道や農道は要注意です。
(名護市のイボイモリについての詳細はこちらの記事

夜こういった林道や農道を走るときは、彼らをひいてしまわないよう注意して走りたいところです(なかなかムズカシイですが・・・)。


名護岳のイボイモリ
(今回事故のあった場所のイボイモリではありません)
個人的に「お手手」と形容したくなる前肢が、かわいらしいと思います。

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さて、今回の事故があった周辺でどの程度イボイモリが生息しているのか情報がなかったので、気温の暖かい日を見計らって夜様子を見てきました。
事故を知らせてくれた方の話では、周辺でイボイモリを見たことはないとのこと・・・

地図を見ながら現場に着いてみると、そこは沢の上流をつぶして農地改良した場所であるということがわかりました。
本来の自然ではちょうどイボイモリが産卵するような環境です。

つぶされてコンクリートU字溝と化した沢を下りていくと、やがて護岸化されていないところにたどり着きました。

しかし・・・赤土等がずいぶん堆積していました。
上の写真の赤い部分は地面ではありません。透明度の全くない赤土等を含んだ水です。
本来ここはV字状の小さな谷間であり、清らかな水の流れが見られるような場所のはずです。

イボイモリは、本来はそのような沢の水辺で産卵するのです。
魚類やテナガエビなど幼生をおそうような比較的大きな水生生物がいない、水たまりと段差が連続するような源流域です。
しかし・・・


段差の石にも赤土等がベッタリ。

ここまで赤土等の影響が大きいと産卵するのは難しそうです。
場所によっては、40cmほど赤土が積もっている場所もあり、泥沼のように足を取られた場所もありました。

しばらく沢を下っていくと、赤土等の堆積はそれほどひどくはなくなりましたが・・・
支流と合流するまで赤土の影響を受けていない場所はありませんでした。


リュウキュウルリモントンボの幼虫

赤土等にまみれながらも、リュウキュウルリモントンボの幼虫がいたことには少し驚きました。
このトンボはイボイモリの産卵場所でよく見かけるトンボです。
イボイモリと何か特別な関係があるわけではなく、同じような環境を好むということです。
ただ、このトンボの幼虫がイボイモリの幼生を捕まえて食べているのを見たことがあるので、全く関係がないとも言えません。


アラモトサワガニもいました。
市内の川の上流ではめずらしくはないですが、沖縄本島伊平屋島にしか生息していないという点で希少な固有種でもあります。

上の写真では甲に赤土がこびりついて体色が黄土色に見えますが・・・
赤土は粒子がとても小さく淡水の中ではなかなか沈まないばかりか、他のものに付着したりします。
私も、長靴にこびりついた赤土を落とすのに苦労しました。
水をかけた程度では落ちません!


さて、沢を下って合流した支流はわりと広い川幅だったのですが、なぜか水が全く流れていません。
「これはアレだな・・・」そんなことを考えながら、その支流をさらに下っていくと・・・・


やっぱり・・・砂防ダムがありました。

写真ではわかりにくりですが、この向こう側は落差が6mほどあるコンクリートの壁となっています。
砂防ダムは、上流から流れてくる土砂や石などをせき止める施設です。
この砂防ダムは、満杯まで土砂や石が堆積し、上流側は水が表面を全く流れていなかったのです。
しかし、地下で水は流れているはずです。
図にすると下のような感じです。

そこで、今度は支流を上流にむかって歩いてみました。
降りてきた沢の合流部も通り過ぎて、砂防ダムから150 mほど上流へ進むと、川底に清らかな水が流れているのが確認できました。
どうやら砂防ダムにせき止められている範囲はここまでで、それより上流は本来の渓流環境が残っているようでした。


1mを超えるオオウナギの大物もいました
・・・が、写真は1m未満の中サイズの個体です。

この周辺は、大きな岩がゴロゴロした渓流域で、テナガエビ(タナガー)やヌマエビ(セーグヮー)のなかまもたくさん見られました。
実は、上のオオウナギの写真にも写りこんでいます。

イボイモリからだいぶ話がずれてしまいましたが、今回現地を見た感じでは、事故があった農道周辺の沢でイボイモリが繁殖するのは、現状から難しいのではないかという印象を受けました。地形を見た感じでは、かつては沢の源流域で一帯が産卵場所だったのではないかと思われます。
もしかしたら、今回事故にあったイボイモリは、この場所で長いこと繁殖に関わってきた個体の数少ない生き残りだったのかもしれません。

しかし、支流の上流は比較的豊かな渓流が残っているようなので、その周辺のどこかでイボイモリの産卵場所が残っていそうです。
(といっても地図を見る限りその支流の上流にも農地があるので何らかの影響を受けていると思われます)
また、イボイモリの繁殖シーズンはこれからがピークなので、その時期、あるいは幼生が水中で見られる梅雨頃に調査を行えば、意外なところで見つかるかもしれません。

今後も観察を続けたいと思います。

(NM)