日々のなごはく。

名護博物館ブログ

博物館の住人? 〜水中部門その4〜 『タメトモ』ハゼ―その名の由来に想いをはせる!

近頃寒くなってきましたね。風邪など引かれていないでしょうか。

さて、今日は久々に博物館で飼っている魚の紹介をしたいと思います。


タメトモハゼOphieleotris sp.)

久々なので、気合を入れて少し長めです!

此魚は帝国産 Gobiidae*1 中偉大なるものにして、土名をポーイーブと云ふ。蓋しポーは大を意味しイーブはハゼの義なれば、之を直訳すればオホハゼなり。此偉大なるハゼの産地屋部川は、往昔鎮西八郎が上陸せし地と相距る甚だ近ければ、予はこれにタメトモハゼてふ新称を与へたり

黒岩恒(1927):琉球島弧に於ける淡水魚類採集概報 365ページより

これは、タメトモハゼが日本で初めて発見され、和名が付けられたときの論文*2から引用したものです。
この記述の通り、タメトモハゼは名護の屋部川から初めて見つかりました。

「鎮西八郎」とは平安時代の武将、源為朝のことであり、彼は戦乱の追討を逃れて沖縄に渡り、その子が琉球王家の始祖「舜天」になったとも言われる伝説的な人物です。

その為朝が流れついた場所とされる、今の沖縄本島今帰仁村の運天港に「源為朝上陸の碑」がありますが、屋部川がその場所から近かったので(個人的にはあまり近いとは思いませんが)、発見したハゼに「タメトモハゼ」と命名したというのです。
命名した人物の博識さが伺えるエピソードです。

余談ですが、命名した黒岩恒(くろいわひさし)氏は沖縄では有名な博物学者であり、尖閣諸島命名者としても知られています*3
上の引用論文は、1912〜1925年に大隈諸島〜先島諸島琉球弧において淡水魚類を調査した氏が、その内容をまとめたものです。

黒岩氏は魚類だけでなく、動物学や植物学、地質学など多岐に渡る分野を研究し、彼が採集した標本に基づいて多くの新種が記載されました。その功績に対する尊敬の念を込めて「クロイワ」の名が付けられた動植物も数多くあります(クロイワトカゲモドキ、クロイワゼミ、クロイワマイマイなど*4)。

また、黒岩氏は、国頭郡各間切島組合立農学校(現沖縄県立北部農林高等学校)の初代校長であり、名護にも縁のある人物と言えるでしょう。

さて、引用にもあるように、タメトモハゼは日本で見られるハゼのなかまでは、3本の指に入るほど大きくなる魚で、成長すると30cmほどになります。

大変きれいなハゼで、日本では種子島屋久島以南に分布しています。

↑ 側面のもよう ↑

↑ 正面からのお顔(何重アゴ!?) ↑

この魚、まぎれもないハゼのなかまですが、体の形はむしろボラに似ており、網で捕まえようとすると水中からジャンプして逃げることもあるようです*5
また、ハゼというと水底でじっとしているイメージがありますが、タメトモハゼは胸鰭(むなびれ)をヒラヒラ動かして中層を浮遊していることが多いです。

飼育していると、調子の良さそうな日は、鰭をヒラヒラさせながらエサをねだってくる人なつっこい魚です。
逆に物陰に隠れたり、底に沈んだまま、ほとんど動かない日もあります。

そんな気まぐれな印象を受けるこのハゼですが、自然下の川ではなかなかお目にかかれません。

沖縄県レッドデータブック絶滅危惧IB類に指定されている希少種です。

タメトモハゼは、川の流れが緩やかで、木の根や草が川岸に覆いかぶさっているようなところを好みます。
水田や湿地などの開けた水域は好まないとされています*6


↑ 川の周りの環境とタメトモハゼ ↑
(じっと見ていると・・・どこに魚がいるかわかるかも?)

このような場所で中層に静止し、流れてきたり落ちてきたりする小動物を食べます。

↑ 潜水観察していたときに落ちてきた昆虫を捕らえたタメトモハゼ
(くわえている昆虫は何かの幼虫でしょうか?わかる方がいたら教えてください!)
※ 2017.6.16追記:幼虫とばかり思っていましたが、どうやらフトミミズ類のようです。

つまり、このような環境のない自然度の低い川でこの魚を見ることは難しいということです。
また、きれいな魚ですので、観賞魚マニアによる乱獲なども心配されています。

沖縄では、このタメトモハゼと、腹部やしり鰭のもようが異なるもう1種(ゴシキタメトモハゼと呼ばれる*7)が知られているようです。

博物館のタメトモハゼは、飼育を始めてから約1年半が経ちました。
興味のある方は無料で公開していますので、ぜひ博物館に足をお運び下さい!

(NM)

*1:ハゼ科のこと。現在では、ハゼ亜目カワアナゴ科に分類されている

*2:黒岩恒(1927):琉球島弧に於ける淡水魚類採集概報. 動物学雑誌,39:355-268

*3:黒岩恒(1900):尖閣列島探検記事. 地学雑誌,12:476-483

*4:波部忠重(1980):貝類研究者列伝(44)黒岩恒(1858-1930). ちりぼたん,11:78-79 などを参考に

*5:川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編・監修(2001):『日本の淡水魚 改訂版』. 山と溪谷社

*6:瀬能宏・矢野維幾・鈴木寿之・渋川浩一(2004):『決定版 日本のハゼ』. 平凡社

*7:鈴木寿之・坂本勝一・瀬能宏(2006):絶滅の危機に瀕するハゼ亜目魚類2種に対する新標準和名の提唱.魚類学雑誌,53:198-200