日々のなごはく。

名護博物館ブログ

名護市内でアマミヤマシギ

先日の夜、名護市内の林道を車で走っていると、うれしい出会いがありました。

車の走る先、林道の上をチョコチョコ歩いている鳥が!
もしやと思いましたが・・・

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アマミヤマシギ Scolopax mira(2019年12月13日 名護市内)

アマミヤマシギでした!
沖縄県の天然記念物であり、県のレッドデータブック第3版では絶滅危惧ⅠB類に指定されています。

アマミヤマシギは、やんばる(沖縄島北部)では一年中見られる留鳥とされていますが、夏にはほとんど姿が見られないことから、冬に奄美大島などから渡ってくるのではないかとも考えられています。

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アマミヤマシギ Scolopax mira(2019年12月13日 名護市内)

アマミヤマシギは名前のとおり、奄美大島では比較的たくさん見られます。私も何度か奄美大島へ行きましたが、夜林道を走ったときに一晩で10羽以上見かけたこともありました。

一方、沖縄本島ではめずらしく、私は名護市より北のやんばる3村でもほとんど見たことがありません。

鳥類専門のT先生に聞いたところ、名護市内からの正式な記録は、おそらく1997年の1件*1を最後にこれまでないのでは?とのこと。

とてもラッキーなことに、この晩は4羽のヤマシギ類を見かけ、このうち3羽は同時に見られました。

また、少なくとも2羽はアマミヤマシギだったように思います。
現在、写真などを見返してチェックしています。

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ヤマシギ Scolopax rusticola(2019年12月13日 名護市内)

アマミヤマシギと一緒に上の写真(ビデオをキャプチャしたので残念画質です)のヤマシギも見られました。
ヤマシギは、越冬のために渡ってくる冬鳥です。

アマミヤマシギよりやや小さく、目が高い位置にある、足が細く短い、などの違いがあるようですが、どちらなのか判断に迷う個体も少なからずいるようです。

・・・・・・・・・・・

この日は、ヤマシギ類に会えるとは夢にも思ってなかったので(カエルの産卵を見に行く途中でした)、望遠レンズを持ち歩いておらず、あまりよい写真が撮れませんでした。

・・・なのでその後、2回ほど同じ場所に足を運んだのですが、アマミヤマシギには出会えませんでした・・・

後で調べてわかったのですが、アマミヤマシギはよく晴れた月の明るい晩に目撃情報が増えるとのこと*2。視覚に頼ってエサを探していると考えられているようです。

最初に数羽を目撃した日は、まさにこの条件に合っていました。

また、この林道は、名護市内でも人や車がほとんど通らない奥地の林道で、上の写真のように道路脇に落葉などが積もっている場所が多いです。

ヤマシギ類は長いクチバシを地面につっこんでミミズなどのエサをとるようなので、あまりきれいに管理されていない(と言ったら怒られそうですが)林道の方がエサを探すのによい条件だったということでしょう。

今回数羽が見られたのは、環境などの好条件が重なりラッキーだったということで解釈していますが、気になることが一つ。

人がほとんど通らないような山奥の林道なのに、ネコがいたことです。
わざわざ山奥や離れ島に、よそからペットを捨てに来るという違法行為が後を絶ちません。
野外に捨てられたネコやイヌは、自然生態系を破壊する外来種です。

マングースやネコなどの外来種による捕食が、アマミヤマシギの生存を脅かすリスクとなっていることが指摘されています*3*4*5

実際にヤマシギ類を見ればわかりますが、近づいても地面を歩き回って逃げ、飛ぶのもヘタで、あっというまにネコなどにつかまってしまう場面が想像できます。

今回見られたヤマシギ類が、野ネコにやられてなければよいのですが・・・

アマミヤマシギは、名護市の安和や沖縄本島中南部宮古島からも化石が見つかっているようで*6、かつては、琉球列島に広く分布していたようです。

 

今では名護市より北のやんばる3村だけで見られるヤンバルクイナやケナガネズミ、イシカワガエルなどの固有種も、かつては沖縄本島に広く分布していたことが化石記録からわかっています。

イシカワガエルは、ほんの30年ほど前までは名護市でも確認されていましたが、今は姿を消してしまいました。

今回確認されたアマミヤマシギのほか、リュウキュウアカガエル、リュウキュウヤマガメなどは、名護市でまだかろうじて確認できますが、いつ姿を消してしまうかもわかりません。

名護市は今、絶滅の波がせまる境界線上にあるのです。

いくつかの種について、名護市より南では絶滅してしまったとも考えられています。

今を生きる私たち一人一人の意識と小さな選択、行動を積み重ねることによって、絶滅の境界線がさらに北上することを防ぐことができるかもしれません。

その第一歩として、調査し、記録し、広く情報発信を続けて多くの人に知ってもらうことが、博物館の大事な使命の一つです。

 

(NM)


 


 

*1:嵩原建二, 2006. 名護岳周辺地域の鳥類について. 名護市教育委員会文化財係, p71-90. 名護岳 名護市動植物総合調査報告書2003-2005, 名護市教育委員会.

*2:水田 拓・鳥飼久裕・石田 健, 2009. 月の明るさが道路上に出現するアマミヤマシギの個体数に与える影響. 日本鳥学会誌, 58 (1): 91-97.

*3:小高信彦・久高将和・嵩原建二・佐藤大樹, 2009. 沖縄島北部やんばる地域における森林性動物の地上利用パターンとジャワマングースHerpestes javanicus の侵入に対する脆弱性について. 日本鳥学会誌, 58 (1): 28–45.

*4:嵩原建二, 2017. アマミヤマシギ. 沖縄県環境部自然保護課, p130-131. 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3 版(動物編) ― レッドデータおきなわ −, 沖縄県環境部自然保護課.

*5:鳥飼久裕, 2007. アマミヤマシギ. Bird Research News, 4 (11): 4-5.

*6:Matsuoka, Hiroshige, 2000. The Late Pleistocene Fossil Birds of the Central and Southern Ryukyu Islands, and their Zoogeographical Implications for the Recent Avifauna of the Archipelago. TROPICS, 10 (1): 165-188.