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名護博物館ブログ

名護市の川の風景 2018年秋・後編 〜淡水と汽水の狭間で〜

前編(こちら)で紹介した川から移動して、名護市の東海岸にある川へ足を運びました。


川岸に張り出したオオハマボウやアダン

一見、どこにでもありそうな川の風景に見えますが、潜水観察して水中写真を撮るにはちょうどいい場所です。
なぜなら・・・
・淵(ふち)の上にオオハマボウやアダンが張り出しており、その陰に大きめの魚がたくさん群れている。
・川底は主に石で構成されており、動いてもあまり濁らない。視界が良い。

といった理由があるからですが、このような条件を備えている場所は残念ながらあまり多くはありません。

オオハマボウやアダン(海岸やマングローブ干潟の周囲に生える)があることから、この場所が海から近いことがわかると思いますが、このような河口域には砂や泥がたまっていて濁っていることが多いのです。そもそも、集落が発達している低地と河口域は重なっていることが多く、水が汚れている場合もよくあります。

しかし、この川は河口域が未発達で、渓流からすぐ海に流れ出ているので、砂や泥がほとんど堆積していません。
海からすぐの場所にも関わらず、川底は上流から流されてきた大きな石で主に構成されています。
自然度も高く、潜水観察するには十分なほど水もきれいです。

さっそく水中に頭をつっこみ、川岸に張り出したオオハマボウの下をのぞいています。


ゴマフエダイ Lutjanus argentimaculatus (2018年11月10日 名護市内)

15 cmをこえる大きなゴマフエダイがたくさんいました。
沖縄ではカースビと呼ばれ、食用にもなります。
中には30 cmほどの個体も見られ、ちょうど食べ頃だな・・・などと思いつつ観察。


目が合いました。
わりと警戒心のない魚だと思います。

魚のまわりが少しもやっとしていますが、冷たい淡水と暖かい海水が混じりあった状態です。
このもやもやの発生は、淡水と海水が混じりあう汽水域でよく見られる現象ですが、ひどくなると視界が悪くなり写真撮影ができなくなります。


ゴマフエダイ Lutjanus argentimaculatus の幼魚
(2018年11月10日 名護市内)

5 cmほどの幼魚。しま模様や鮮やかな鰭(ひれ)がきれいですが、大きくなるにつれてこの特徴は消えていきます。
ゴマフエダイは、こどもの頃は汽水域で生活し、大きくなると海へ移動する魚です。
沖縄で食用となる魚で、このような生活を送る種はたくさんいます。
つまり、水産学的にも河口域の自然環境の保全は重要な意味を持っているのです。


ユゴイ Kuhlia marginata (2018年11月10日 名護市内)

沖縄の淡水域を代表する遊泳魚です。沖縄名はミキユー、ミチューなど。
素早く泳ぎ回るのでなかなか撮影しにくい魚ですが、物陰にいるときはわりとゆったりしている気がします。
奥にはゴマフエダイがぼんやり写っていますね。
海からすぐに淡水域になるこの川では、淡水域の魚と汽水域の魚を同時に観察しやすい点でも面白いです。


オオクチユゴイ Kuhlia rupestrisギンガメアジ Caranx sexfasciatus
(2018年11月10日 名護市内)

ギンガメアジ(沖縄名ガーラ)の幼魚が、オオクチユゴイの後を必死になって追いかけていました。
どちらも食用になります。ギンガメアジも幼魚のときだけ川に入ってくるタイプの海産魚ですね。
川で見かけるギンガメアジの幼魚は、よく他の魚の群れに混じって泳いでいます。
誰かと一緒にいないと不安なタイプでしょうか。


写真だとわかりにくいですが、オオクチユゴイが方向転換すると、ギンガメアジもぴったりと後に続きます。


ギンガメアジにとっては生き残るために必死なのでしょうが、なんだかほほえましい光景です。
もっとも、追いかけられるオオクチユゴイにとっては迷惑かもしれませんが・・・
ちなみに、ゴマフエダイを追いかけているギンガメアジもいました。


ヒメツバメウオ Monodactylus argenteus の幼魚
(2018年11月10日 名護市内)

小さいですが一際目を引くきれいなヒメツバメウオの幼魚がいました。
この魚もなかなか素早いですが、それなりにうまく撮れてよかったです。
汽水域で見られる本種ですが、もともと八重山諸島に多かった魚で、一昔前は沖縄本島ではめずらしかったようです。
ここ10年ほどで、沖縄本島でもふつうに見られる種になりました。


ベッコウフネアマガイ Septaria lineata (2018年11月10日 名護市内)

水に浸かったアダンの葉の上に何かツブツブがあるな・・・なんだろう?と思っていたら、どうやらベッコウフネアマガイが産卵した卵のうだったようです。
ベッコウフネアマガイは、環境省のレッドデータで絶滅危惧種に指定されています。

沖縄県のレッドデータでも最近まで同じように指定されていましたが、2017年の改定第3版で指定から外れました。
貝はあまり丹念に探さないので、目につかないだけかもしれませんが、名護市内の川ではあまり見かけない気がします。


移動するベッコウフネアマガイ

WEB上で水中を移動している写真が見つからなかったので紹介。
スルスルと思ったより高速移動をしていました。

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さて、十分に観察し、日も暮れてきたので上がろうかと思って川岸に目をやると・・・見たくないものが目に入ってしまいました。


ツルヒヨドリ Mikania micrantha (2018年11月10日 名護市内)

外来生物法で、地域の自然を破壊する恐れのある特定外来生物に指定されている本種。
名護市をふくむやんばる(沖縄島北部)でツルヒヨドリの分布拡大が問題になっていることは、過去に紹介しましたが(こちらの記事)、まさかこんなところにもあるとは・・・
幸い、まだ周囲には広がっていないようだったので、根から取り除きました。
川岸には砂を捨てたような形跡がありましたが、それに本種の種などが混じっていたのかもしれません。

完全に取り除くことができたかどうか・・・今度も要注意です。

(NM)