少し前のことですが、久々に河口域で投網を投げました。名護博物館の近く、市街地の外れにある川です。
この日は若潮ではありましたが、上げ潮時で満潮も近い時間帯でした。
・・・にも関わらず、河口に砂が堆積し、口がほとんど閉じてしまっている状態でした。いわゆる河口閉塞(かこうへいそく)が進んでいる状態です。
河口は海と川を行き来する魚が通過する場所であり、河口閉塞はこの移動を阻害する原因の一つとされています。
なお、沖縄の川で見られる魚の多くが海(汽水域)と川(淡水域)を行き来する種であり、もし完全に海と川を行き来できなくなった場合、川の魚の多様性は著しく低くなってしまいます。
はたして川には海から魚が入ってきているのか・・・
さっそく網を投げてみます!
1投目で取れたミナミクロダイ(沖縄名はチン)の幼魚。ちょうど地元の中学生たちが近くで釣りをしていましたが、話を聞いてみたところ、このチンを狙っているとのことでした。
2投目。ボラやオニヒラアジの幼魚。
ミナミクロダイと同じく、川の淡水と海から入ってくる海水が混ざる汽水域でよく見られる魚です。
沖縄で食用になる海産魚の中には、汽水域となる河口域を幼少期の生活場所として利用する種がわりと多く見られます。そういった点で、河口域の環境は水産学的にも重要なのです。
・・・さて、1投目、2投目と魚が入ったので、まずは一安心。
その後も場所を少しずつ変えて投げていきます。
博物館活動でいつもお世話になっているWさんも同行し、投網に初チャレンジ!
少しずつ慣れ、最後の方は網を広げて投げられるようになり、魚もしっかり入っていました!
Wさんが投げた網には、セスジタカサゴイシモチがたくさん入りました。汽水域でよく群れている魚です。小さいですがこれで成魚で、おなかの中には卵や白子(精巣)を持っていました。
アジのなかまのマルコバン幼魚も数匹取れました。まだ食べたことがないですが、美味しいらしいです。今回のものは食べるほどのサイズではないですが・・・
オキナワフグの幼魚も数匹取れました。こちらは有毒です。
さてさて、紹介したのは一部の魚だけですが、どうやら河口が完全に閉じて海と川を行き来できないほどの状況ではなさそうです。満潮時で潮位が上がったときに出入りしているのでしょう。
・・・ただ、満潮時にも口が完全に閉じるほどに河口閉塞が進行すると、大きな問題が生じることが様々な研究で報告されています。
この川は以前はもっと河口が開いていたのですが、隣接する場所に人工砂浜を作り砂を入れたあたりから、河口の砂の堆積が目立ってきたように思います。
今後も注意して観察していきたいと思います。
海側で取れた生きものなど
ついでなので、河口に堆積した砂地から海側にも網を投げてみました。
ニセクロホシフエダイの幼魚。沖縄名ヤマトビーとして、食用で売られている魚です。河口域でもよく幼魚を見かけます。
ボラ類の幼魚がたくさん取れたので、釣りをしていた子どもたちに活エサとしてあげたところ、80cmほどのアオヤガラを釣り上げてくれました。
ストローのような筒状の口を持ち、他の魚などを吸いこんで食べる肉食の魚です。
釣れたのは河口の脇の海側で完全に海の魚ですが、満潮時の潮の流れに乗って川の中に入ってくることが時々あります。
眼がきれいですね。
持ち帰って調べたところ、胃の中からコバンヒメジの幼魚(左)が出てきました。なお、エサとして使った右のボラ類の幼魚はストロー状の口の中に納まっていました。
コバンヒメジは基本的には海底にいると思うので、アオヤガラがどのようにして捕らえたのか想像がふくらみますね。
今回、いくつかの種については、標本用に少し持ち帰りました。
上の写真は、鰭(ひれ)を立てた状態でホルマリンを使って固めているところです。
魚類は種を見分けるときに鰭の条数(スジのような部分の数)が大事なポイントになるので、このような処理をしてから標本を作ります(鰭が寝たまま固まってしまうと、数えにくい)。
写真を撮った後に本格的にホルマリンに漬けて保存します。ホルマリンに漬けてしばらくすると、黒い色以外は抜けてしまうので、魚が新鮮な状態で写真を撮っておく必要があるのです。
上の写真は簡易的な撮影で、本当はもっとしっかり手間ひまかけて撮影することが望ましいのですが・・・時間的余裕がありませんでした!
撮影時間がないときは、水の中に入れた状態で密閉して冷凍し、後日解凍・撮影する選択肢もあるのですが・・・そうやって溜まっていった魚が冷凍庫にたくさん入ったままになっているのが現状です。
学芸業務だけに専念できれば、こういった課題もある程度は解決できますが・・・
他にもたくさんやるべきことがあるので、仕方がないですねぇ。
(NM)