梅雨が続いている沖縄では、先月末から今月に入ってまとまった雨が降っていますが、そんな雨の合間をぬって名護市内の渓流に足を運びました。
今回の主目的の一つは、植物を見ることだったのですが、せっかく足を運ぶので目的地まではひたすら歩き、ところどころ這いつくばって水中の観察も行いました。
今回の終着地だった、名護市内(東海岸)のある川の支流上流にある名もない滝です。3年ほど前に一度足を運んだきりでした。岩盤の上を流れる段差状の滝で小さく見えますが、手前の段差が2mほどありますので、全体の高さは6m以上と思われます。
この滝の前で、冒頭の婚姻色(こんいんしょく)がきれいに出たアカボウズハゼ(絶滅危惧Ⅱ類・沖縄県レッドデータブック第3版(以下RDB))のオスに出会うことができました。きれいに色の出た個体に会うのは個人的には久しぶりです。
同じ場所に、目立たない体色のアカボウズハゼのメスも数個体いました。
生きものの世界ではオスの方がおしゃれなことが多いですね。
最上流の常連、クロヨシノボリ。成魚がいるのは、まぁ普通として、本種らしき幼魚もいました。下流にある堰(せき)の影響を受けているかもしれません。
本種は本来川で生まれた後、すぐに海へ流されてしばらくは浮遊生活を送ります(その後また川へやってくる)。ところが、川を下る途中でダム湖のような広い止水域があると、そこを海代わりにすることが知られています。つまり、この小さい幼魚は堰の上部にある貯水域から上ってきた可能性があるのです。
・・・だから何?と思う方もいるかもしれませんが、人工物の影響による生物の分布の変化が地域の生態系を狂わせる場合があることが問題視されているのです。
例えば、次に紹介するアオバラヨシノボリは、大型ダムの開発によって絶滅してしまった場所もあるのですが、この要因の一つとして、ダム湖の誕生によって増えたクロヨシノボリに生存競争で負けてしまった点が指摘されています。
こちらが、沖縄島の固有種アオバラヨシノボリ(絶滅危惧ⅠA類・沖縄県RDB)で、今回の場所でも確認することができました。一生を中上流域ですごすので、親と同じ場所で子どもも生活しています。これは普通のことのようにも思えますが、沖縄の川で見られる魚の中ではかなりの少数派です(外来種をのぞく)。
多くの魚は、上のクロヨシノボリと同じように、海と川を行き来する生活を送ります。
最も絶滅のリスクが高いランクに指定されている本種ですが、名護市内で記録のある川は数ヶ所に限られています。この川(水系)での記録は以前からありましたが、今回足を運んだ支流にも分布しているということは初めて知りました。ただ、個体数は少なそうです。
こちらも最上流の常連、ヤマトヌマエビ。透明感のある体に点模様のあるきれいなエビです。観賞用として人気があるのも納得です。
このエビも海からはるばる上ってきます。他の魚やエビが登れない落差10mを越えるような滝も楽々上ります。そのため、競争相手の少ない滝の上でたくさん見られることが多いです。
身近な場所でも見られる、おなじみのテナガエビ類2種も確認しました。この2種は、低地を流れる川の中流域でもよく見かけます。
よく見かける種なんですが・・・よい写真を撮るのは意外とムズカシイです。「手長」の由来になっているハサミ脚が長いのはオスの特徴ですが、これを構図内にバランスよく納めて、さらにピントも全体的に合わすとなると、なかなか・・・
基本的に落ち着きのない子で動き回りますしね・・・
滝に行く途中の早瀬で確認した、お久しぶりのツブテナガエビ(準絶滅危惧・沖縄県RDB)。
上の写真の個体は少し色が薄いですが、緑色に赤い縦線(頭を上にして考えます)が入るその体色は、国内で見られるテナガエビのなかまでもトップクラスに美しいです。
今回、数年ぶりに会うことができました。
ふと水際に目をやると、まだ若い(小さい)オオハシリグモがクロヨシノボリ(たぶん)を捕えて食べている最中ではないですか!
どちらも珍しくない種ですが、この瞬間に出会えるのはレアです。この写真が撮れただけでも、来たかいがありましたね。
なお、オオハシリグモは大きくなると手の甲サイズになり、カエルなどもおそって食べます。水際の水面に脚(あし)を出し、獲物を待ちぶせるハンターです。
渓流を歩いている途中、水際の岩で羽化したオキナワオジロサナエに出会いました。
やんばるの渓流を代表するトンボの一種です。
他にも羽化直後のまだ色がついていない成虫が飛んでいるのを数回目撃しました。
今ちょうど羽化のシーズンなので、よいタイミングでしたね。
リュウキュウアイを探しに
ここまで長くなりましたが、冒頭にも書いた通り、今回は植物のリュウキュウアイ(琉球藍)を探しに行くことが主目的の一つでした。新博物館にむけた資料収集の一環です。
沖縄で藍染に使われる植物として有名ですが、日本の伝統的な藍染で使われるアイ(タデ科)とは違い、キツネノマゴ科に属しています。
3年前に足を運んだ際にこの渓流沿いに生えているのを確認したものの、最近の状況は不明だったので、資料収集も兼ねて見に行こうという話になったのが今回の発端でした。
一度しか足を運んでいない場所だったので、記憶もおぼろげでしたが、無事探し出すことができました。よかったよかった。
ついでに、いくつか植物も紹介。
上の3種は、渓流でよくセットで見られる気がします。クニガミサンショウヅルは準絶滅危惧種(沖縄県RDB)に指定されています。
私は植物にはまったく疎く、これまでの川の観察でもそれほど注意を払ってきませんでした。でも、せっかく苦労して沢へ足を運んでいるので、植物もある程度わかるようになればいいなと思い、少しずつですが覚えているところです・・・道のりは果てしなく遠いですが。
今回は、植物に詳しいSさんも同行していたので助かりました。
渓流沿いでコバノミヤマノボタン(絶滅危惧Ⅱ類・沖縄県RDB)が一輪咲いていました。前々から花を撮影したいと思っていたのですが気づいたらシーズンを逃す、ということを繰りかえしていたので、予期せぬ出会いにうれしくなりました。
暗い林内に木漏れ日がスポットライトのように差し込み、花を照らす様は美しくもあったのですが・・・写真に撮るとイマイチな気が。
次への課題としましょう!
(NM)