この間年が明けたと思ったら、あっという間に5月になってしまったわけで・・・
おそくなりましたが、今年初の水中観察に出かけました。
今回足を運んだのは、名護市の西海岸に面したある川の上流です。この川の上流には、琉球列島の固有種で希少種でもあるキバラヨシノボリがすんでいます。
以前このブログでキバラヨシノボリについて紹介したこともありますが、その川とはまた別の川です。
上の記事でも書きましたが、キバラヨシノボリは、長い年月の間に上流で隔離され独自の進化をとげた種類です。1990年代に行われたある調査では、名護市の西海岸に面している3つの川で生息が確認されています。私もここ数年の間にこの3つの川でそれぞれ本種を確認しています。
なお、東海岸に面する川にも生息しているという記録がありますが、川の上流域は米軍基地の中にあるため、調査をするのがなかなかムズカシイという現状があります・・・
キバラヨシノボリの最大の特徴の一つである、黄色い稚魚。
今ちょうど繁殖のシーズンなので、たくさん見られました。
このように上流域で水中を漂うような稚魚生活を送るヨシノボリは、沖縄では2種しかいません。キバラヨシノボリとアオバラヨシノボリです。
ヨシノボリのなかまは慣れないと見分けるのもムズカシイですが、稚魚がいるということはその親も生息している目印になります。
こちらがキバラヨシノボリの成魚のオス。
こちらはメス。キバラの名のとおり、おなかが黄色いです。
名護市におけるキバラヨシノボリ最大の生息地である川(今回とは別の川)では、高い滝の上に本種ばかりがたくさんすんでいるパラダイスがあります。
しかし、今回観察した場所では、キバラヨシノボリ以外の魚もかなり見られました。
まずは、上流域の定番種であるクロヨシノボリがいました(上の写真はオス)。
キバラヨシノボリにもっとも近縁な種がクロヨシノボリです。2種は共通の祖先を持つのですが、太古の昔に地殻変動で高い滝などの上に取り残され、独自の進化を遂げたのがキバラヨシノボリと考えられています。
川で見られるほとんどの魚、エビ・カニ、貝類は、一生のうちに海と川を行き来しますが、キバラヨシノボリは海へ出る生活を捨て、一生を上流域で過ごすよう進化した種です。
一方のクロヨシノボリは、海と川を行き来する典型的な生活を送り、生まれてから一定期間は海で過ごします。その後川へやってきた稚魚は、上流を目指しながら成長していくのです。
クロヨシノボリは川上りの達人で大体の滝は上ってしまうのですが、上に挙げたキバラヨシノボリのパラダイスにはほとんど生息していません。
その川には、川上りの達人でさえ上るのがむずかしい、水が空を切って流れ落ちる高い滝があり、下界から上流のパラダイスへ侵入しようとする者を阻んでいるためです。
このため、滝の上にはキバラヨシノボリ、下にクロヨシノボリといった構図が成り立ちます。
ところが、今回観察した場所では、キバラヨシノボリに混じってクロヨシノボリが少なからず見られました。この川には、クロヨシノボリの上流への進出を阻むような高い滝はないようです。
そのため、2種の分布の境界があいまいになっているのでしょう。
アカボウズハゼのオスも見つけました。オスの赤い婚姻食(こんいんしょく)がきれいなことで有名ですが、上の個体はいま一歩というところでしょうか。
こちらは、ボウズハゼ。
中流から上流でよく見られますが、川を上る能力はそれほど高くないのか、最上流部ではあまり見かけない種です。写真は撮れませんでしたが、ほかにルリボウズハゼやナンヨウボウズハゼもいました。
テナガエビのなかまも2種いました。上の写真のミナミテナガエビは中流域の代表種で、上流域では少ないです。
これらの確認できた魚やエビ相から見ても、この場所は海から比較的上ってきやすい環境のようでした。
・・・さて、今回観察した範囲は川の中のごく一部だったので、下流から上流にむけて生物相がどう移り変わっていくのか、そのうちしっかりと調べてみたいところです。・・・いつもそのうちと言っている気がしますが(汗)
規制対象となったキバラヨシノボリ
今回メインで観察したキバラヨシノボリですが、最近県の条例(沖縄県希少野生動植物保護条例)で保護対象となりました。無許可で捕まえるのは禁止されており、違反すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が課せられますので気をつけましょう。対象種のリストや写真付ハンドブックが下の沖縄県ホームページで確認できます。
● 沖縄県ホームページ
沖縄県指定希少野生動植物種及び指定外来種の指定について/沖縄県
自然下においてキバラヨシノボリに出会うことは滅多にないかとは思いますが、上流域で他のヨシノボリなどに混じって間違って取れてしまうこともあるかもしれません。
0.5~1.5 cmほどの黄色い魚の子どもが取れたら(あるいは見かけたら)、本種である可能性がかなり高いです。ヨシノボリのなかまは魚の専門家でも判別するのがムズカシイことがあるので、そういった場所で魚を捕まえるのはやめておいた方が無難でしょう。
なお、この条例では、キバラヨシノボリのほかにも、メダカ(ミナミメダカ)、ドジョウ(ヒョウモンドジョウ)、オキナワオオサワガニ、ヤマタカマイマイ類などが指定されています。
とくに、オオサワガニやヤマタカマイマイなどは人里近くでもよく見かける種ですので、注意が必要です。
(NM)