日々のなごはく。

名護博物館ブログ

名護の川の季節2014年度 その1 キバラヨシノボリ

先週末に、市内の川へ出かけてみました。
この時期ならではの光景も見られたので紹介したいと思います。

西海岸のある川の最上流です。



この川には、キバラヨシノボリ Rhinogobius sp. YB(絶滅危惧IB類 沖縄県RDB)がいます。
写真は上がオス、下がメス。
メスは「キバラ」の名の通り、繁殖期におなかが黄色くなります。
何のことはない、ただのハゼに見えますが、このキバラヨシノボリは知る人ぞ知るハゼです。
というのも、沖縄の川でみられるほとんどの魚は、一生のうちに海と川を行き来する生活を送りますが、このハゼは一生を上流でくらし、海に出ることがありません。

このハゼがくらしている川には、高い滝があることが多く、滝の上のみに隔離された状態で世代交代をくり返します。
そうすると、何万年という長い年月の間に、それぞれの川の滝の上で独自に進化するという現象がおこるようです*1
ということは、「キバラヨシノボリ」としてひとくくりにされている種は、厳密には、川ごとに違う種である可能性があるということです。
私も多くの川でキバラヨシノボリを見たわけではないですが、確かに川ごとに模様などが違う気がします。
この川のものは、頬の赤い点が他と比べて少ない気がします。

そんなわけで、魚好きや研究者から注目されているハゼなのです。

さて、前置きが長くなりましたが、今はキバラヨシノボリの繁殖の時期。
キバラヨシノボリがいる場所にいくと、生まれて間もない子どもを見ることができます。

キバラヨシノボリの子ども。

脊椎、つまりは背骨がまだできておらず、代わりに脊索(せきさく)という棒状の軸が見られます(体の真ん中のスジのようなもの)。
私たちがよく知っている魚の背鰭(せびれ)や尾鰭などもまだなく、膜鰭と呼ばれる鰭のようなものが見られます。イメージとしてはオタマジャクシに近いかもしれません。
文献を調べてみたところ、大体ふ化して1週間くらいの発育段階にあてはまるようです*2
(この文献では、市内の他の川のキバラヨシノボリ卵を室内で孵化させて飼育しています。)
生まれてからの当面の栄養源である卵黄を吸収し、脊索の一番後ろ側が上に曲がり始めて尾鰭ができ初めています。
専門的には、屈曲期仔魚とよばれる発育のステージです。


こちらは、もう少し発育が進んだ子ども。
尾鰭が尾鰭らしくなり、背鰭やしり鰭のスジ(鰭条)も見えてきて大分魚らしくなっています。
後屈曲期仔魚とよばれるステージで、専門的にはまだ稚魚とは言いません。

いずれにしても1cmにも満たない大きさなので、カメラのピントを合わせるのがムズカシイ!
何枚も撮って何とか写っていたのが・・・2枚だけです。

キバラヨシノボリは、沖縄で見られる他のヨシノボリに比べると大きな卵を産み、ふ化する子どもも相対的に大きいです。
大きな卵や子どもを産むことは、生息場所からはなれた下流に流されないようにするための適応と考えられており、一生を淡水中で生活する生きものによく見られます。
沖縄の淡水ハゼでは、もう1種、アオバラヨシノボリも大きめの卵を産みますが、同じように一生を淡水ですごす種です。

ところで、キバラヨシノボリは、奄美大島にもいるのですが、沖縄島のものより少し発育が進んだ状態でふ化するようです*3
このあたりも島や川ごとに違いがあるのかと思うと、とても面白いですね。


鰭を立てて近づいてきた相手を威嚇するオス。
ヒートアップすると口も大きく開けます。


顔中を何かに寄生されたキバラヨシノボリ。とてもかゆそう・・・
いろいろ調べて2枚貝のグロキディウム幼生に似ているなぁと思ったのですが、貝の専門家に聞くと違うとのこと。
キバラヨシノボリは、この白い点々に寄生されているのをよく見かけるのですが・・・正体は一体?
わかる方はぜひ教えてください。

市内でキバラヨシノボリがすんでいる川は、片手で数えるほどしか確認されていません。
キバラヨシノボリは本来外敵の少ないところにすんでいるためか、環境の変化に弱そうなイメージがあります。
観察していると、好奇心が強いのかむこうから近づいてきたりして、個人的には温室育ちの怖いもの知らずという印象を持ちます。

絶滅危惧種は、開発や外来種などに脅かされているわけですが、キバラヨシノボリの場合は、川ごとに遺伝子が違うわけですから、川ごとに保護のための対策を講じる必要があるのかもしれません。

【オマケ】
キバラヨシノボリがいる場所は、他の魚が上ってこられないような滝の上であることが多いので、キバラヨシノボリばかりがいる楽園になっていることもあるのですが、この場所では他のハゼもいました。


クロヨシノボリ Rhinogobius brunneus のメス。

市内の川の上流で見られる代表格。キバラヨシノボリはこの種から進化したとされています。


アカボウズハゼ Sicyopus zosterophorum のオス。
赤い婚姻色が出るととてもきれいな魚ですが、まだうすいですね。
絶滅危惧IA類(沖縄県RDBに指定されています。

高い滝や砂防ダムにもめげず、海からここまで上ってきたようです。
頑張ったねぇと言いたいところです(笑)

(NM)

*1:Kano, Y., S. Nishida and J. Nakajima(2012)Waterfalls drive parallel evolution in a freshwater goby. Ecology and Evolution, 2(8):1805-1817.

*2:平嶋健太郎・立原一憲(2000)沖縄島に生息する中卵型ヨシノボリ2種の卵内発生および仔稚魚の成長に伴う形態変化. 魚類学雑誌, 47:29-41.

*3:四宮明彦・笹邊幸藏・櫻井真・岸野底(2005)奄美大島住用川におけるキバラヨシノボリ孵化仔魚の形態. 魚類学雑誌, 52(1):1-8.