日々のなごはく。

名護博物館ブログ

名護岳に肢の多いシリケンイモリ!

先週、インターンと一緒に名護岳へ出かけたときのこと。
小雨が降っていたからでしょう・・・彼らが、林道脇を歩くシリケンイモリ Cynops ensicauda を見つけたのです。

このシリケンイモリ、よくみると左の前肢が何か変です。

ひじのあたりから、もう一本肢が生えていました!

しっかりと指もあります。

このような形態異常は、両生類、特にカエルで有名で、自然界で古くから観察されています。
とはいっても、全体の割合からするとごくわずかで、なかなかお目にかかれるものではありません。
私も見るのは初めてです。

ふつふつと興味がわいてきたので、国内外の事例について少し調べてみました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 自然界で通常見られる形態異常の割合 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アメリカで行われたある調査によると、野外で採集したサンショウウオTiger Salamander)のうち、成体では7.8%(687個体中)、幼生では8.1%(1,259個体中)に形態異常が認められ、今回のシリケンイモリのような肢が多く生えている過剰肢(Extra Limbs)は、成体で0.3%に見られたそうです(幼生には出現せず)*1

1000匹いたら、わずか3匹。
もちろん、地域や種が違うので簡単に比べることはできませんが、自然界において多くないことは確かでしょう。

ところが、このような肢の多いイモリやカエルが同じ場所から集中的に見つかったらどうでしょうか?
何か異常なことがその場所で起こっているのではないか・・・と、心配になるのがふつうだと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜 国内外で集中的に形態異常が見つかった例 〜〜〜〜〜〜〜〜〜

国内では1995年、北九州市の山田緑地で採集された59匹のヤマアカガエルのうち7匹(11.9%)に過剰肢が見つかり、他の地域と比べても異常に高い割合で出現したことが報告されています*2

この場所は、戦前から戦中は旧日本軍、戦後は在日米軍が弾薬庫として使用していた場所であり、DDT等による環境汚染が懸念されたことから、このようなカエルの出現が市民の不安をあおったのは想像に難くありません。
実際にその後の調査で、山田緑地の土壌やカエル(卵含む)がダイオキシン類やDDT等によって比較的高濃度に汚染されていたことがわかったそうですが*3、それらの汚染と過剰肢との関係性については不明のようです。
ただ、交配実験から、この形態異常は遺伝することが明らかにされています*4

さて、同じ1995年頃から、海のむこうの北アメリカでは、各地で過剰肢のカエルが多く見つかり、世間の注目を浴びたようです。
このような形態異常を引き起こした要因として、化学物質による環境汚染や紫外線などが挙げられましたが、扁形動物吸虫類のリベイロイア(Ribeiroia)がカエルの幼生に寄生することで、このような過剰肢ができてしまうことが明らかになり*5、現在ではそれが主な要因と考えられているようです。

寄生虫に感染することで引き起こされる形態異常は後天的なものなので、北九州市の例とは事情が異なるわけです。

このように、両生類の形態異常を引き起こす要因として考えられているものは様々で、これだ!と一つに断じることは、なかなか難しいようです。
また、それぞれの要因が複雑に作用して形態異常を引き起こすこともあるようです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  形態異常は、人間活動を映す鏡なのか  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

たとえば、寄生虫が要因の場合、環境汚染は関係ない?
・・・と思ったら、そうではないとのこと。

リベイロイアは、中間宿主として両生類の前に巻貝に寄生するらしいのですが・・・
富栄養化した水環境で藻類が大繁殖すると、それを食べる巻貝が増加・大型化し、結果として寄生虫のカエルへの感染率もはね上がり、形態異常を引き起こす・・・このようなメカニズムが、野外実験で明らかにされています*6

富栄養化は、肥料などに含まれるリンや窒素が周辺から川や湖沼に流出することでおきるわけですから、人間活動による環境汚染が、寄生虫の増加に一役買っていたというわけです。

ところで、イモリやサンショウウオは、再生能力が高いことで有名です(カエルも幼生のときは再生能力が高いそうです)。
ある研究では、サンショウウオ(Long-toed Salamander)の肢を切除して多くのリベイロイアに感染させると、再生したときに高い確率で形態異常を引き起こすことがわかったとのこと。また、傷つけた肢だけでなく、反対側の肢などにも形態異常が出てくる場合があるとか*7
この研究論文では、サンショウウオの共食いと寄生虫感染による相乗効果が、より多くの形態異常を引き起こすことを指摘しています。

はたして、名護岳で見つかったシリケンイモリは、なぜ、このような形態異常を持っていたのでしょうか?
何にしても、このようなイモリがたくさん見つからないことを祈ります。

(NM)

*1:Williams, RN, DH Bos, D Gopurenko, JA DeWoody (2008) Amphibian malformations and inbreeding. Biology Letters, 4, 549-552.

*2:武石全慈 (1996) 北九州市山田緑地で見られた過剰肢をもつヤマアカガエル Rana ornativentris について. 北九州市立自然史博物館研究報告, 15, 119-131.

*3:中村正久 (2001) 絶滅が危惧される両生類の国内実態調査と情報ネットワークの作成及び環境汚染モニター動物の作製に関する研究. 財団法人 日本公衆衛生協会, 平成12年度 内分泌攪乱化学物質等の作用メカニズムの解明等基礎的研究 研究報告書, pp. 155-209.

*4:同上

*5:Johnson, PTJ, KB Lunde, EG Ritchie, AE Launer (1999) The effect of trematode infection on amphibian limb development and survivorship. Science, 284, 802–804.

*6:Johnson, PTJ, JM Chase, KL Dosch, RB Hartson, JA Gross, DJ Larson, DR Sutherland, SR Carpenter (2007) Aquatic eutrophication promotes pathogenic infection in amphibians. Proc Natl Acad Sci U S A, 104(40), 15781-15786.

*7:Johnson, PTJ, ER Preu, DR Sutherland, JM Romansic, B Han, AR Blaustein (2006) Adding infection to injury: synergistic effects of predation and parasitism on amphibian malformations. Ecology, 87(9), 2227-2235.