日々のなごはく。

名護博物館ブログ

夜の渓流 〜リュウキュウアカガエルなど〜

国頭村の渓流で産卵シーズンを迎えているハナサキガエルの様子などを先日の記事で紹介しましたが、名護市でも見られないかなと思い、市内渓流に足を運んでみました。

このブログでも何度か紹介してきましたが、やんばる(沖縄島北部)の渓流を特徴づける固有種であるオキナワイシカワガエルやナミエガエル、ホルストガエル、ハナサキガエルは、1990年代まで名護市でも確認されていました。しかし現在は生息が確認できない状況が続いています。

市内のどこかに生き残っていないかなぁ・・・というわずかな希望を胸に川の最上流へ足を運びました。

結果としては、やはり上に挙げた4種に出会うことはできませんでしたが、リュウキュウアカガエルを見つけることができました。


リュウキュウアカガエル Rana ulma
リュウキュウアカガエルも渓流性のカエルです。
やんばるでは名護市が生息の南限とされていて、下隣の恩納村からは確認されていません*1
やんばるの他には久米島に生息していて、環境省沖縄県レッドリストで、ともに準絶滅危惧種に指定されています。

1990年代の名護市の動植物総合調査では、名護岳や多野岳、久志岳近辺の6か所で生息が確認されていますが、市内における生息状況は楽観できないかもしれないとされています*2
市内から次に姿を消す第一候補のカエルかもしれません。

渓流性のカエルたちが名護市から姿を消していく理由として、開発や外来種の影響などが考えられていますが、確かなことはわかっていません。
しかし、カエルたちが生息できる環境が失われてしまったことは確かです。


今回、リュウキュウアカガエルの成体が見られた場所の近くでは、幼生(オタマジャクシ)も多数見ることができました。
このカエルも冬に産卵しますが、時期的にはハナサキガエルよりもやや早いようで、11〜12月頃が多いようです。
卵は見つからず、この場所での産卵シーズンはもう終わっているようでした。


リュウキュウアカガエルの幼生

幼生がいたのは、川の源流付近で地表を水がほとんど流れておらず、岩盤の上で所々水たまりのようになっている場所でした。
リュウキュウアカガエルはこのような水深の浅い場所に集まって産卵するので、ふ化してからそれほど移動していないでしょう。

ところで、私はカエル類に詳しくないので、幼生を見てもどの種なのかいまいちわかりません。
何匹か持ち帰って調べることにしました。
※ オキナワイシカワガエル、ナミエガエル、ホルストガエルは沖縄県の天然記念物ですので幼生を間違えて採集しないよう注意が必要です。

カエルの幼生は、口の周りの特徴が同定(種を判別すること)の重要なキーポイントとなります。


幼生を横からみたところです。
おなか側から口の周りを顕微鏡で見てみると・・・


こんな感じとなっています。
なかなかひょうきんな顔です。


さらにアップにするとこんな感じ。
口の周りに、藻類などをはぎ取るためのブラシのような歯が並んでいますが、この配列は種ごとに特徴があります。
これを「歯式」と呼ばれる式で種ごとに表すことででき、

上の写真だと、1:3+3/1+1:3 となります。

・・・なんじゃそりゃ、と思う方も多いと思いますが(私もはじめはそうでした)、この歯式を確認することで、リュウキュウアカガエルの幼生であるということがわかりました。

歯式の見方や種ごとの特徴は、下記の図鑑などを参考にしました。

・西田睦・鹿谷法一・諸喜田茂充編(2003)琉球列島の陸水生物, 東海大学出版会.
・松井正文(2008)カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック. 文一統合出版.

上は専門書で値が張りますが、下は一般的なハンドブックで比較的安く手に入ります。

さて、今回リュウキュウアカガエルの成体と幼生が見られた場所は、源流付近の約200mほどの間だけで、水量の安定している支流へ降りるとその姿を見ることはできませんでした。
支流のすべてを見たわけではありませんが、産卵場所は限定されているような気がします。
引き続き、生息状況の情報を収集していきたいと思います。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  お ま け  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この川には昼に何度も来ていますが、夜だと景色がまた違って見えます。


炭焼き釜跡がありました。
昔の山のくらしが伺えます。
何度も横を通っていたはずなのに、気づきませんでした(汗)


川岸にライトをむけると、一面に咲くサツマイナモリの白い花が反射してキレイでした。
冬の渓流の景色という感じです。



サツマイナモリより一回り小さいアマミイナモリもありました。


サツマイナモリ(上)とアマミイナモリ(下)の花。

拡大。アマミイナモリは、花の外側にも細かい毛が生えているとされています。


エゴノキの花びらを持ち運ぶアラモトサワガニ。
恥ずかしくて顔をかくしているわけではないと思いますが(笑)、何をしているのか・・・
エゴノキの花びらもたくさん落ちていたので、単なる偶然でしょうか。


水量の安定している支流へ降りると大きなモクズガニもいました。

水温を測っているときに周りを見渡すと、アクティブなアオミオカタニシ発見!

チラッ・・・この高さ、行ける!

体を伸ばして上っていきました。


川岸の穴から顔を出しているのは・・・


沖縄県の天然記念物イボイモリ。
5匹ほど見かけましたが、それぞれお気に入りのマイホームがあるようで顔を出して外の様子をうかがっていました。


穴からはみ出したイボイモリ。

イボイモリの産卵シーズンはこれから春先にかけてやってきます。
この沢では、6月頃にイボイモリの幼生も多数見たことがあるので、夜、産卵のために歩き回るイボイモリの姿も近々見られそうです。

(NM)

*1:千木良芳範, 2014. 恩納村の両生爬虫類. 恩納村誌編さん委員会, pp. 453-490. 恩納村誌 第一巻 自然編, 沖縄県恩納村役場.

*2:千木良芳範, 2003. 名護市の両生類. 名護市教育委員会文化財係, pp. 225-247. 名護市の自然, 名護市動植物総合調査報告書 1988-2002, 名護市教育委員会.