毎年行っている東江小学校の幸地川の出前授業(去年の記事はこちら)。
小学校での事前講話を終えて、今週から実際に川で生きものを探す学習が始まりました!
週末に沖縄本島を通過した台風の記録的な大雨によって、幸地川もかなり増水したようです。
いつも観察している場所の環境がずいぶん変わっていました。
上の写真の左側に砂利が堆積しているのが見えていますが、これは増水によって上流から流されてきたものです。
川底の砂利の上を歩いてみると、足が少し沈みこむ場所があり、石と石の隙間に泥などが詰まっておらず、堆積して間もないことがわかります。
専門的には、浮石と呼ばれる状態です。
台風前、この場所は草が茂っていましたが、増水の勢いで流されたか、あるいは堆積した砂利の下に埋まってしまったと考えられます。
こちらでは、流されてきた樹木の根が転がっているのが確認できます。
台風の直後ということもあり、増水で生きものが流されてしまって観察できなかったらどうしようかな・・・
とも思いましたが、エビなどをはじめ、比較的多くの生きものを見つけることができました。
・・・と言いつつ、エビの写真を撮るのを忘れてしまったのですが(笑)
テナガエビやヌマエビのなかまがたくさん観察できました。
テンジクカワアナゴ
魚類では、テンジクカワアナゴがたくさん見つかりました。
アナゴと名前はついていますが、ハゼのなかまで淡水域でよく見られます。
上の写真はこの日一番の大物で、体長10cmほど。
テンジクカワアナゴの稚魚
同じ種の小さな稚魚も見つかりました。体長2 cmにも満たないです。
川の魚やエビ・カニのほとんどが、生まれてからしばらくは海で過ごします。
この稚魚は、海から川へやってきて水中を漂う生活から川底の生活に移ったばかりと考えられます。
水際の深さが1cmもないような浅くて流れの緩やかな場所にいたのですが、
泳ぐ力の弱い魚やエビの子どもは、水流の強い流れの中心より、このような場所にいることが多いです。
稚魚や稚エビにとって重要な場所なのです。
ところで、魚類について、去年はヨシノボリのなかまやイッセンヨウジなども見つかったのですが、今年は見つかりませんでした。
少し甲の形に違和感がありますが、ベンケイガニっぽいカニの抜け殻が落ちていました。
比較的海から近い場所の川辺などでふつうに見られるカニです。
*2020/1/31追記:ベンケイガニではなく、タイワンベンケイガニでした。
カニはほかに、淡水域でおなじみのモクズガニやオオヒライソガニが観察できました。
コカクツツトビケラのなかま
川岸の草かげなどでよく見られるトビケラ類の幼虫で、落ち葉の破片で器用に自分の巣を作ります。
このような小さな水生昆虫は他の生物のエサ資源として重要です。
トビケラやカゲロウ、カワゲラのなかまは、川底が赤土などで汚染されると多くの種が生息できなくなるので、川の自然度を測るバロメータにもなります。
コフキヒメイトトンボのオス
水際の植生には、コフキヒメイトトンボが見られました。
成熟したオスは、胸部が粉を吹いた白色になります。
今回の観察では、大型の水生昆虫としてトンボの幼虫(ヤゴ)がたくさん見られました。
アカナガイトトンボの幼虫(ヤゴ)
この場所ではおなじみのトンボです。
開けた環境を好みますが、ため池のような止水域でなく、流れのある川の中流域の水際植生でよく見られます。
沖縄島北部と阿嘉島(慶良間諸島)にしか分布していない亜種です。
このトンボは山間の森に覆われた渓流でよく見かけ、この場所のような開けた場所ではふつう見つかりません。
今回の観察会では複数個体見つかりましたが、おそらく増水で上流から流されてきたのではないかと思われます。
このトンボも上流の渓流にすんでいる、沖縄島北部のみに分布する亜種です。
東江小学校の幸地川学習はこの場所で10年近く毎年行われていますが、今回初めて見ました。
オキナワオジロサナエと同じように、上流から流されてきたのでしょうか。
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今回の観察結果をみると、やはり台風による増水の影響をそれなりに受けているようです。
この場所でいつもはたくさん見られる巻貝(アマオブネのなかま)は、ほとんど見つかりませんでした。
砂利などと一緒に下流へ流されてしまったのかもしれません。
しかし、それが生きものにとって悪いことかというと、必ずしもそうではありません。
環境が変わることによって、これまでそこには住めなかった生きものが入りこむチャンスが新たに生まれることがあります。
また、ある生物にとっては年々悪化していた環境が、回復することもあります。
今回の川の様子をみて、私は、奄美大島のリュウキュウアユの話を思い出しました。
何年か前に大きな被害を出した奄美大島の記録的大雨ですが、そのときに川にたまっていた土砂等が洗い流され、リュウキュウアユにとって生息に適した環境に回復したという話です。
実際に、その大雨の翌春には、かなりの数のリュウキュウアユの稚魚が川に上ってきたことが調査で明らかにされています。
このように、不定期でおこる増水等による環境変化が、川に多様な環境を提供し、結果として豊かな生物相を生み出しているのではないかと思います。
さて、野外学習はまだ1クラス終わったばかり。
このようなクラス単位の学習では、探す目が多いせいか、ときには思いがけないめずらしい生きものを目ざとく発見する子がいます。
子どもたちは生きもの探しに夢中になっていましたが、私も今後どんな生きものが見られるのか楽しみです。
なお、観察した後、採集した生きものは川へ返しています。
川の自然を末永くみんなで楽しみながら学ぶためには、自然と他者への配慮を忘れず、節度ある利用を心がけることが大事です。
(NM)