日々のなごはく。

名護博物館ブログ

川のカニづくし

先週末まで開催していた写真展「やんばる生きもの紀行 〜昆虫たちの世界と琉球のサワガニ展〜」は好評のまま終了することができました!
足を運んで頂いた皆さん、ありがとうございました!(展示の様子はこちらから)

展示会の中でサワガニを大きくクローズアップしていたこともあり、開催期間中はカニづくしの日々だったように思います。
展示以外でのカニ要素をふり返ってみたいと思います。

これも川のカニ?・・・正体は以下の記事で!

〜〜〜〜〜 関連イベントでカニ 〜〜〜〜〜

先日も紹介しましたが(こちら)、展示会の関連イベントで「名護岳夜の生きもの探検隊」を展示期間中に2回行いました。
どちらも定員一杯の盛況でしたが、その中でカニたちにも出会いました。

参加者が発見したモクズガニ Eriocheir japonica

モクズガニは、淡水域を代表するカニで食用にもなります。
写真展ではサワガニを扱っていましたが、昔から生活に身近だったこのモクズガニの質問もお客さんからたくさんありました。

アラモトサワガニ Geothelphusa aramotoi  

アラモトサワガニは、名護の川で一番普通に見られるサワガニです。
今回探検隊で行った場所にたくさんいました。


〜〜〜〜〜 夜のやんばるの森でカニ 〜〜〜〜〜

展示会と関連して、夜のやんばるの山(国頭村大宜味村)へも行きました。
やんばるの固有種、オキナワミナミサワガニが林道でたくさん見られました。

おなかに卵を抱いたオキナワミナミサワガニ Candidiopotamon okinawense 

ちょうど、卵を抱いている姿を見ることができました。
この卵の大きさがまさにサワガニ!という感じです。

卵の部分を拡大!

よく見ると卵の中に稚ガニの脚(あし)が見えています。
このサワガニは国頭村などの川ではよく見かけるのですが、名護市の川では残念ながら見たことがありません。

稚ガニを抱えたオキナワミナミサワガニ

こちらは別の個体。
卵からふ化した稚ガニがおなかにたくさん抱えられていました。

サワガニのなかまは、大きな卵を少数産み、親と同じ形をした稚ガニの状態でふ化します。
一方、川で見られる多くのカニは、小さな卵をたくさん産み、生まれた子どもは泳ぐ力の弱い未熟な幼生です。
この幼生のうちに水の流れに乗って様々なところへ運ばれていき、脱皮をくり返して稚ガニになります。
サワガニ類は、この過程を卵の中で終えて、ふ化して親からはなれた後もあまり移動しません。
このため、島ごとに独自に進化して別種になっていることが多いのです。

〜〜〜 名護の川で新発見!?のカニ 〜〜〜

これは写真展と直接関係ないですが、開催期間中に行った小学校の川の出前授業の中で、冒頭で紹介した写真のカニ(白いバーは1cm)が取れました。
ちょうど子どもたちの前で、「こうやって生きものを見つけるんだよ〜」というデモンストレーションをしているときに手網に入ったのですが、見た瞬間、「ん!?ナンダコレ?」という感じでした。

持ち帰って調べたところ、2014〜2015年に石垣島から日本初記録種として見つかり、今年の2月に和名と一緒に論文で発表されたばかり*1の「ニンジャベンケイガニ Labuanium trapezoideum 」であることがわかりました。
沖縄島では初記録かもしれません。これもカニのお導きでしょうか。
論文では、潮の影響のある感潮域のすぐ上で見つかったとありましたが、今回見つかった場所は、感潮域上端から500mほど上流の淡水域でした。

〜〜〜〜〜 そして標本へ 〜〜〜〜〜

今回の展示会と関連して、共催者の熊井さんからサワガニの冷凍資料の寄贈がありました。

喜界島産のサカモトサワガニ Geothelphusa sakamotoana 

奄美大島北部産のサカモトサワガニ Geothelphusa sakamotoana 

見ての通り、同じ種でもずいぶん色や形が違います。
これは一部ですが、熊井さんが琉球列島各地の離島に足を運んで採集したもので、サワガニの多様性を示す貴重な資料となるでしょう。
情報を整理してしっかり標本にしたいと思います。

(NM)

*1:前之園唯史・成瀬貫 (2016) 石垣島より採集された日本初記録のベンケイガニ科 (甲殻亜門: 十脚目: 短尾下目) の2種. Fauna Ryukyuana 28: 5-22.