先週、カエルの観察・動画撮影をするために、やんばるの渓流へ出かけてきました。
目的のカエルは、「日本一美しいカエル」との呼び声も高いですが、観察するのは一苦労。
名護博物館を出発したのは、夜の9時。国頭村の山奥を歩き回り、帰ってきたのは深夜3時過ぎ。これで何も見れなかったら、精神的ダメージは計り知れません(笑)
しかし!今回は強力な助っ人が!
同行して下さった沖縄県立博物館のC先生は、両生類のスペシャリスト。
先生の案内の下、観察チームは夜の川を練り歩きます。
果たして結果は!?
今回観察したいカエルは、川の源流近くの渓流にすんでいるカエル。
林道から斜面を降りて、渓流に入るとあちらこちらからカエルの声。
まず最初に見つけたのは、きれいな緑色のカエル。
オキナワアオガエル
学名 Rhacophorus viridis viridis
英名 Okinawa Green Tree Frog
緑色のカエルと言えば、本土ではほとんどの人がアマガエルを思い出すでしょうが、このカエルはもう少し大きめ(体長5〜6cm)のカエルで、木の枝や葉っぱの上でよく見つかります。
ちなみに、以前紹介した外来種のシロアゴガエル(記事⇒1、2)はこのカエルに近い仲間で、同じアオガエル科に分類されています。
シロアゴガエルと同じように泡状の卵塊(らんかい)を産みますが、シロアゴが夏から秋にかけて産卵するのに対し、このカエルは主に冬に産卵します。
さて、アオガエルの登場でテンションが上がってきた一同。
でも、このカエルは名護市内でも見つけることができるのです。
目的のカエルを目指して、さらに奥へ進みます!
そして・・・
ついに見つけました!
イシカワガエル
学名 Odorrana ishikawae
方言 マヤーワクビチ
英名 Ishikawa's Frog
どうでしょうか?「日本一の美しさ」に偽りなし?
いやいや、毒々しくて気持ち悪いよ!
・・・と思う方もいるでしょうね(笑)。
ちなみに「イシカワ」は、動物学者で旧東京帝国大学(現東京大学)教授の石川千代松先生にちなんでいます。
これまで、イシカワガエルは沖縄島北部(やんばる)と奄美大島に生息していると思われていました。
ところがつい最近(昨年)、奄美のイシカワガエルは沖縄島のものとは別種であることがわかり*1、アマミイシカワガエルと名付けられたのです。
つまり、やんばるに生息しているイシカワガエルは、世界中でこの場所にしかいない固有種ということになります。
やんばるに生息しているといっても、その場所は国頭村など北側に限られています。
本種は沖縄県の天然記念物ですが、実は県より前に、名護市が市の天然記念物として指定し、保護していた時期があります*2。
つまり、昔は名護市でもこのカエルを見ることができたのです。
1970年代には、名護市の汀間川や源河川で確認された記録があります*3。
でも、今はもうその姿を見ることはできません。
イシカワガエルが生息できる豊かな渓流が失われてしまったのか・・・
それとも、マングースなどの外来種の影響で減ってしまったのか・・・
定かではありませんが、カエルがすめない環境になってしまったことは確かです。
現在、沖縄県レッドデータブックで絶滅危惧IB類に指定されています。
さて、イシカワガエルは大型のカエルで、体長10cmほどになります。
オキナワアオガエルと同じように冬に産卵するカエルで、1〜2月をピークに川岸にできた穴の中や、岩のわれ目の水たまりなどに卵を産みつけます。
繁殖期には、産卵する穴の近くでオスが鳴いてメスを呼んでいます。
鳴き声はカエルというよりは、何か獣のうめき声のようで、初めて聞くと不気味に感じるかもしれません。
今回の観察は産卵期の終わりに当たりますが、残念ながら卵は発見できませんでした。
代わりというわけではないですが、骨と皮だけになってやせ細った個体を見つけました。
ひょっとして、卵を産み終えた個体??
・・・かもしれません。
このように限られた環境で繁殖し生活するイシカワガエル。
いつかまた、名護市で見られるようになる日が来ることを願っています。
【今回撮った動画】※音が出ます!
最初の鳴き声がイシカワガエルです。
−−−−−−−−【オマケ 今回見られた他の生きもの】−−−−−−−−
シリケンイモリ(方言:アカワター、ソージムヤーなど)
準絶滅危惧(沖縄県レッドデータブック)。
川べりの水たまりに足の踏み場もないほど群れていました。
ちょうど今頃からが繁殖時期。
ナミエガエル(方言:ミジワクビチ)
沖縄県天然記念物。絶滅危惧IB類(沖縄県レッドデータブック)。
「私は岩・・・」と言わんばかりに背景と同化しています(笑)
このカエルも昔は名護市で見ることができたそう・・・
ハナサキガエル
絶滅危惧IB類(沖縄県レッドデータブック)。
イシカワやナミエよりは多く見られる印象。
とても姿勢正しいカエルで、小鳥のようなかわいらしい声で「ピッ」と鳴きます。
オオハシリグモ
足を広げると手の平サイズの巨大なヤツです。
巣を張らずに徘徊し、獲物を捕らえるクモで、上のハナサキガエルなども餌食になるとか・・・
以上、夜の川歩きリポートでした!
(NM)
*1:Kuramoto, M., Satou, N., Oumi, S., Kurabayashi, A., Sumida, M. (2011) Inter- and intra-island divergence in Odorrana ishikawae (Anura, Ranidae) of the Ryukyu Archipelago of Japan, with description of a new species. Zootaxa, 2767,25–40.
*2:千木良 芳範 (1997) 緊急手配!名護のイシカワガエル. 名護の自然, pp. 14-15. 名護市教育委員会社会教育課文化財係・名護市動植物総合調査委員 編集.
*3:千木良 芳範 (1977) 両生類・爬虫類. 名護市天然記念物調査シリーズ第1集 名護市動植物総合調査報告書, pp. 129-179. 名護市教育委員会社会教育課.