日々のなごはく。

名護博物館ブログ

リュウキュウアユの標本など

いつもお世話になっている島袋さんから、リュウキュウアユの標本を寄贈して頂きました。
沖縄島で絶滅する前に名護市内で採集された非常に貴重な標本です。

リュウキュウアユの標本(1976年1月に島袋さんが名護市奈佐田川で採集)
このブログでも何度か紹介しましたが(こちらの記事など)、リュウキュウアユは、本土復帰後の沖縄島の河川環境の悪化に伴い、1980年頃に絶滅してしまいました。

現在、やんばるの川で見られるリュウキュウアユは、河川環境保全運動の高まりとともに起こった「アユを川へ呼びもどす活動」によって、1992年に移植された奄美大島産のリュウキュウアユの子孫たちです。


奄美大島リュウキュウアユの子孫(2015年に名護市内の川で撮影)

沖縄島のリュウキュウアユは、ほとんど研究されることもなく絶滅してしまったため、標本がほとんど残っていません。
その後の研究で、残された唯一の産地である奄美大島リュウキュウアユは、西海岸と東海岸の川で遺伝子が異なる集団ということが明らかにされています。
そのことから、かつて沖縄島で見られたリュウキュウアユは奄美大島のものとは「別の」アユだったのではないかと考えられています。
このような点から、絶滅前の沖縄島のリュウキュウアユ標本は大変貴重なものです。


島袋さんは元高校の理科教諭助手で、沖縄の淡水魚研究に多大な貢献をした故・幸地良仁さん(元高校理科教諭・名護市動植物総合調査委員)と一緒に川の生物調査へ同行することも多かったそうです。
今回見せて頂いたリュウキュウアユの標本には、幸地さんが採集したものも含まれていました。

しかし残念ながら、そちらはラベル等に採集情報が書かれていなかったので、いつ採集したものかが現時点ではわかりません。
情報収集とともに、貴重な標本を保存するための準備を進めていきたいと思います。

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ところで、島袋さんは高校の生物クラブの顧問を務めていたことがあり、2015年にも名護高校生物クラブの標本をまとめて当館に持ってきて下さいました。
高校の先生や生徒さんが個人的に、あるいはクラブ活動などで収集した標本の中には、貴重なものが含まれていることがあるのですが、学校では年月が経って担当教官も人事異動で変わっていく中で破棄されてしまうことが多々あるそうです。
そのように捨てられてしまうのはもったいないとの考えから、当館に寄贈して頂きました。

たとえば、以前寄贈された標本の中には、1956年に名護市で採集されたリュウキュウアオヘビの標本がありました。
リュウキュウアオヘビは普通種ではありますが、現在の名護市では姿を見かけることが難しくなってきている種のひとつです。


リュウキュウアオヘビが入っていた標本瓶のラベル

年季を感じるラベルですが、しっかりと採集情報が記入されているので、当時の名護市の自然を知る上で貴重な標本と言えます。

その他に気になった標本として、1981年に市内で採集されたウシガエル外来種)に混じって見つかったハナサキガエルがあります。


ハナサキガエルの標本

ハナサキガエルも現在の名護市では姿を消してしまったカエルの一つです(ハナサキガエルについてはこちらの記事など)。
この標本はウシガエルと同じ標本瓶に入っており、ラベルには1981年11月8日に奈佐田川で採集したことが記されていました。
後に別の標本が混じってしまった可能性が高いとは思いますが、もし奈佐田川にハナサキガエルがいたとしたら、それもまた貴重な記録です。


さて・・・私たちが今当たり前のように享受している自然の恵みは、数十年後にも同じように存在しているでしょうか?
豊かな生態系が生み出す恩恵(生態系サービスと呼ばれます)は、食資源や様々な原材料、エネルギー資源をはじめ、気候調節、酸素、水・・・とあらゆるものがあります。

今、身の周りで何気なく見られている生きものたちも、そうした恩恵を生み出す生態系を支えている構成員です。
私たちの生活のあり方次第で、そういった生きものたちも遠くない未来に姿を消してしまうかもしれません。
そうなると、その因果関係が巡り巡って生態系から私たちが受けられる恩恵も減ってしまう可能性があります。

標本は、私たちに過去の「その瞬間の自然」がどんなものだったのかを教えてくれます。
それは、その種が存在していたというだけでなく、その種がくらせるだけの環境があったということに他なりません。
同じように、今何気なく作って残した標本も、いずれは未来の人が過去を振り返るときの判断材料となるでしょう。
そして、大げさに言うならば、自然との付き合い方を間違えたときに、人のくらしのあり方を考え直す手助けをしてくれるものでもあるのです。

(NM)