名護市街地のすぐ近くで見られるホタル
前回、名護岳(名護中央公園)のホタルのことを書きましたが、写真をうまく撮影できなかったので、再トライしてみました。
どちらも名護岳(名護中央公園)で撮影したものです。一枚目はふもとの公園内、二枚目は公園内道路脇から谷間の林内を見下ろして撮影しました。
7時半~8時半頃にカメラを固定して、シャッタースピード約10~20秒で繰り返し撮影し、写りの良い10枚ほどを合成したものです。したがって、写真のような光景が一度に見えたわけではありません。また、実際には背景は暗くて肉眼ではほとんど見えませんが、環境がわかるように明るめに調整しています。
なお、一枚目の写真で地面が明るくなっている場所がありますが、撮影中に昇ってきた月の明りに照らされたためです。これはこれで雰囲気がありますね。
写真の見た目ほどではないですが、今年はクロイワボタルがよく観察できるように感じています。林内で多くのオスがピカピカ光りながら飛んでいる光景が見られます。
このホタルは強い光で点滅しながら飛ぶので、シャッタースピードを遅くして撮影すると点状の光跡が写ります。なお、一枚目に写っている筋のような光跡はオキナワスジボタルのものです。クロイワボタルほど光は強くないですが、風情を感じますね。
葉にとまっているオキナワスジボタルを見つけました。おしりの光っている部分が2節あるのがオス、1節なのがメスだそうです。
イモムシのような形をしたオキナワスジボタルの幼虫。カタツムリなど陸生の貝類を食べます。幼虫を撮影したら右側の貝も一緒に写っていました。食事をしようとしていたところかも?
以前も紹介しましたが、ホタルの多くの種は幼虫のときも光ります。むしろ、成虫になると光らなくなる種が多く、沖縄本島では成虫(オス)がはっきり光るのは2種だけです。
地面の近くの草陰などで光っていたら、それは幼虫である可能性が大ですね。
ホタルのすむ環境と保全について考える
さて、少し前に新聞でもホタルの記事を見かけましたが、今がちょうどシーズンなので、ホタルを観察しに出かける方も多いようです。
そのような地元の方と撮影中に出会ったのですが、曰く、「昔は身近でもっとたくさん見られたんだけど・・・ホタルのすめる環境が少なくなったね」とのこと。
名護市内では、昔より少なくなったかもしれませんが、ホタルを観察できる場所がまだたくさんあります。今回の写真もあえて市街地から近い場所で撮影しましたし・・・名護博物館から車で5分ほどの場所ですから、なんと恵まれた環境でしょうか。
多くのホタルがくらしていける条件として、湿った森や林の存在、エサとなるカタツムリやミミズなどの豊かさ、交信手段である発光が阻害されない暗さ(注1)・・・などが挙げられるでしょう。
ホタルが生み出す幻想的な光景を後世に残すためには、私たちの生活とこうした豊かな自然環境の共存を考えていく必要があります。
一方で、人々を魅了するホタルは、しばしば「増やして放す」対象にもなるようです。県外では、ホタルを増やすために幼虫やエサとなるカワニナを増やして川に放すような活動事例もあるようです(沖縄のホタルはクメジマボタル以外陸生でカワニナは食べません)。
しかし、エサにしろホタルにしろ、増やして野外に放すという行為は、外来種を放して本来の自然生態系を狂わすリスクが高く、不用意に行ってはいけません。
県外の事例では、産地を無視した放流が遺伝子汚染を引き起こし、地域の生態系を撹乱することが問題視されています*1(注2)。
何か一つの生きものを増やすために、本来の自然を壊してしまうようなことは歪であり健全とは言えません。そのような歪な環境は、張りぼて、見せかけの自然でしかありません。放流という行為だけでは、ホタルがくらせる環境を維持することに何も貢献しないのです。
彼らが野生下で繁殖できる豊かな自然環境を残して(あるいは復元して)あげることが何よりも重要です。
上のホタルやカワニナ放流の例では、学校などの教育機関が誤った認識のまま学習の一環として取り入れてしまった例も多々あるようです*2。
子どもたちに間違った知識を与えてしまうと考えると・・・恐ろしいですね。
指導する側は、客観的な正しい知識を持つために日々情報を更新し、間違っていたらすぐに軌道修正することが重要です。
情報発信をする者にとって、「間違い」は常につきものです。私も人事ではないので気をつけたいと思います。
沖縄本島で増え始めた外来種のホタル
最後に、近年では沖縄本島南部で外来種のオオシママドボタルが増え始め、問題になっていることを紹介したいと思います。
このホタルは八重山諸島の固有種ですが、沖縄本島では外来種です。このような国内、県内の外来種問題は、セマルハコガメやヤエヤマイシガメ、サキシマハブ、ミナミメダカなど他の生きものでも見られます。
生きものを移動させるリスクに無頓着であったり、地域に固有の生態系があるということに無自覚であると、このような外来種問題は際限なく広がり、世界に誇れる沖縄の自然の地域性や特異性は、いずれ失われてしまうでしょう。
・・・いや、すでに多くの場所で失われている可能性が高いのです。
これ以上失わないためにも、多くの人の理解や関心が必要不可欠です。
(NM)
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(注1)街灯など人工の光は、ホタルに影響を与えることが知られており*3、沖縄本島でも末吉公園の事例報告があります*4。
(注2)同じ種であっても、地域によって遺伝的特徴が違うことがあります。このような地域差を無視した放流は、増やそうとしている種の野生下での絶滅をさらに加速させる場合があります。
*1:たとえば、山野井貴浩・佐藤千晴 ・古屋康則 ・大槻朝, 2016. ゲンジボタルの国内外来種問題を通して生物多様性の保全について考える授業の開発. 環境教育, 25(3): 75-85.
*2:古屋康則・三宅崇, 2012. 岐阜県内の教育機関における水生生物の放流活動の実態. 岐阜大学教育学部研究報告(自然科学), 36: 25-30.
*3:遊磨正秀, 2017. 動植物に対する「光害」、特にホタル類への影響. 全国ホタル研究会誌, 5: 25-40.
*4:塚本康太・辻和希, 2016. 沖縄本島に生息する2 種のホタル:クロイワボタルLuciola kuroiwae、オキナワスジボタルCurtos okinawanus 成虫の野外における季節消長と日消長. 保全生態学研究, 21: 193-201.